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【新書 感想 レビュー】2035年にはガンは治せるようになっている?希望に満ちあふれた未来の医療を知りたいあなたへ!

 

 医療の進歩について興味ありませんか?

 

 私たちの苦痛や持病や難病、そういったものを解決できるとしたら、皆さんは人生に対して希望がもてるのではないでしょうか。

 巻頭にある著者の文を引用します。

 

 2020年現在、医療は「完成期」に入りつつある(中略)「完成期」とはすなわち、人間が病気では簡単に死ななくなる時代、ということです。(中略)人がすでに病気では簡単に死ななくなりつつあること、そして今後ますますそうなっていくのは裏打ちのある真実であることを深く納得していただけるはずです。

 

と、劈頭、びっくりするような文言がならんでいます。

 そう。
 私たち人間は長足の進歩によって、「病気で死ぬことがない時代」に突入しているのです。

 最先端の医療についてみていくことにしましょう。
 加えて、私たちが難病やワクチンをどういう視点でみればよいのかも記述していきます。

 では、『未来の医療年表』(講談社現代新書の始まりです。

 

 

 

 2035年、ガンは人間に克服される

 

 ガンは遺伝子の問題ー二つの薬

 

 ガンは遺伝子の異常によって引き起こされる遺伝子疾患といわれています。

 2000年代にはいってからガンを引き起こす遺伝子を正す「分子標的薬」ができました。
 
 分子標的薬はガンを引き起こす特定の遺伝子のみを攻撃できます

 要するに今まではガン以外の健全な組織も攻撃してしまっていたため人々の身体に損害を与えていたわけですが、それが比較的抑えられるようになっているということです。

 

 この薬の開発は乳ガン、胃ガン、血液などからはじまり、進歩してきました。

 

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本書より

 

 更に2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑らが開発した「免疫チェックポイント阻害剤」もガン治療には有効だといわれています。

 

 ガン細胞は人間の免疫細胞にブレーキをかけるのですが、このチェックポイント阻害剤はブレーキを阻害し、人間の免疫力を復活させるという効力があるのです。

 

 これにより2030年から2035年頃までにはこの二つを組み合わせたガン治療薬が誕生しているといわれています。

 

 私たちはガンで死ぬことから解放されるということです。

 

 「難病」って何?

  難病の定義と歴史

 

 難病とは良く聞く言葉です。
 私も友人に難病の人がいるのですが、数が少ないのでそんなに耳にするようなことはありません。

 実は難病は国による明確な定義があります。

 

 旧厚生省は1972年に「難病対策綱領」を策定し、次のように定めました。

 

 

 原因不明、治療方法未確立であり、かつ、後遺症を残すおそれが少なくない疾病

 経過が慢性にわたり、単に経済的な問題のみならず介護等に著しく人手を要するために家族の負担が重く、また精神的にも負担の大きい疾病

 

 

 と定義しています。

 このとき難病に入ったのがベーチェット病、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、スモン」の四つで医療費助成の対象になりました。

 

 2015年には、難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)が施行されました。 


 

患者数が一定の基準(国の人口の0.1%程度)より少ない

客観的な診断基準がある

 

 

 難病を「指定難病」にし、医療費助成の対象としました。
 このときに全部で110疾患が指定難病になります。

 潰瘍性大腸炎パーキンソン病モヤモヤ病などです。

 2020年8月現在だと、333疾患にものぼります。

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本書より

 

 これだけの病気が「難病」扱いされ、治療できないままになっていることを思うと、生きることの大変さがわかりますね。

 私たちはいつこういった病気に自分が罹ってしまうかわからないわけです。

 病気は突然やってきて、その人から人生を奪い去ってしまいます。

 

 しかし、「難病」には何の希望もないかといわれれば、それは違います。

 

 難病指定は解決の余地がある

 

 

 難病指定される病気は「客観的な診断基準」が求められます。

 ここには遺伝子解析が進歩した結果、「あなたの病気は難病です」といえるようになったと考えられるのです。

 

 もしこれが本当に病気であったか分からない場合、風邪と間違えられたり、単なる怠け者として扱われるだけだったりします。
 

 医療分野において新生面がひらかれたおかげで、病気と認定できるようになったのです。

 そして難病指定は「なんとかなるかも・・・」という病気が指定されるといわれています。

 

 公衆衛生と予防接種

 社会全体で人の健康を守る

 

 公衆衛生という概念は1920年アメリカの細菌学者チャールズ・エドワード・A・ウィンスローが定義した次の言葉からはじまります。

 

 共同社会の組織的な努力を通じて、疾病を予防し、寿命を延長し、身体的、精神的健康と能率の増進をはかる科学や技術

 

 

 上記の文にもあるように公衆衛生とは社会全体で健康を保つために協力しあおう、という考えなのです。

 

 たとえば、一つの例がインフルエンザワクチンの予防接種です。

 

 インフルエンザは若い人が感染しても死に至ることはあまりありません。
 よって、若年層にはワクチンを受けたくないのであれば、それはそれで構わないわけです。

 しかし、高齢者や糖尿病、心臓病などの基礎疾患をもっている人にとっては非常に危険です。

 若人が媒介者になり、彼らに感染させてしまう危険がある。
 それは社会全体に有害な影響を与えてしまうからこそ、ワクチン接種がよびかけられているのです。

 こういった社会全体を踏まえて、医療体制を整えることが公衆衛生の考え方です。

 

 ワクチン接種が義務でなくなった理由ーインフルエンザと子宮頸がんワクチン

 

 ただし、ワクチン接種は公衆衛生のために必要だといわれても、インフルエンザワクチンは義務づけられてはいません。

 

 1976~1987年まで年小中学生に向けてワクチン接種が義務化されていました。

 高齢者も含めて年間約37000人から49000人ほどの命を救っていたと考えられているようです。

 

 しかし、このインフルエンザワクチンの接種は今では義務ではなくなりました。

 副作用の可能性があるからです。

 

 私たちは病院へ行き、ワクチン接種を受けた後、「具合、悪くありませんか?」ときかれますね。

 

 アレルギー反応でアナフィラキシー様症状(発疹、じんましん、赤み、かゆみ、呼吸困難など)が出るうえに、数万人に一人の確率で死亡例があるからなのです。

 

 最大約五万人程の人間を救うことができるが、ワクチン接種によって誰かしらかは死ぬ可能性が出てくる。

 そうなると、政府の方も義務づけできなくなってしまったわけです。

 

 こういったことは十年ほど前にも話題になりました。

 

 子宮頸がんワクチン問題

 

 子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)をうたれた女性が全身の痛みやマヒなどのしびれを訴えるという事態が発生したのです。
 
 私ズンダも当時ニュースでこの報せを見て、驚きました。

 若い女子中学生が車椅子に乗り、自分で歩くことがままならない姿を見てかわいそうに感じました。

 

 この報道は盛んに行われ2013年以降6月以降は「積極的な接種勧奨の差し控え」が続いています。

 

 この子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)が原因で起こるガンです。

 

  ↓女性必読の書。子宮の病気は女性の人生に大きな影響を与える。

ドクターが教える! 親子で考える「子宮頸がん」と「女性のカラダ」

ドクターが教える! 親子で考える「子宮頸がん」と「女性のカラダ」

  • 作者:太田 寛
  • 発売日: 2020/09/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

・日本では毎年一万人が罹患
 英米オーストラリア、北欧ではワクチンのおかげで有意に低下している

 

・WHOは子宮頸がんワクチンの安全性の問題はみつかってないと発表している。

 

・2015年にはWHOのワクチン安全性諮問委員会が「若い女性をHPVによるがんの危険にさらしている」と批判しています。

 

 リスクをどう考えれば良いのか

 

 ここで考えなければならないのは結局、リスクなのでしょう。

 

 たとえば100人のうち1人が死ぬ。
 しかし99人は救われる

 という問いがあったときに私たちはどうしたらよいのでしょうか。

 

 もしHPVワクチンをあのままうっていたら、多くの女性は子宮頸がんにならなくてすんだかもしれません。

 無論、麻痺などが起こる女性はでてきたでしょう。

 

 少数のワクチンによる副作用が起こる人たちと、大多数のワクチンによって救われる人たちとがここで天秤にかけられているわけです。

 

 ↓反ワクチン運動といわれるものによって、どれだけ多くの生命が失われているのかを説いた本。一人を助けるか九九人を助けるか。

反ワクチン運動の真実: 死に至る選択

反ワクチン運動の真実: 死に至る選択

 

 

 

 大変難しい問題です。 

 正直、大多数が救われるからと言って少数の人間を等閑にしていいわけがありません。

 一方で、子宮頸がんワクチンをうてば助かった人々が多かったことを思うとそれも無視できないですね。

 

 当たり前ですが、私たちは皆が老衰で死ぬわけではありません。

 不慮の事故や思わぬ病気などで、本来の寿命を迎える前に死ぬ人たちなどがいるわけです。

 

 その際、常に数字を考えねば成りません。
 無論、私たちは常に数字を意識して物事を決定できるわけではないし、それが絶対に悪いといいきれないことは、以下の書物にも書かれているとおりです。

 

 

 

 しかしながら、データや統計などを全く無視して、何かを判断することが正しいかといわれたらそれも違います。

 

 

 

 奥氏はヘルスリテラシーという概念を紹介しておられます。
 引用します。

 

 デンマークの公衆衛生学者クリスティン・ソーレンセン博士は2012年に著した論文で、ヘルスリテラシーに関して以前から存在した「17の定義と12の概念モデル」について検討し、ヘルスリテラシーとは「ヘルスケア、疾病予防、健康増進という三つの領域の健康情報にアクセスし、理解し、評価し、利用できる、知識、意欲、能力のこと」であると整理しました。

 

 

 私たちは自分たちで情報を集めるだけの意欲をもって、なるべく理解し、自身の体を理性的に保っていかなければならないということです。

 

 そしてこれは、医学の話だけではありません。
 政治や経済など、私たちの生活に密接していることについても常に新しい情報や知見を求め、学んでいく必要があるでしょう。
  

  終わりに

 

 大変読みやすい本です。二時間ほどで読了できるでしょう。

 奥氏は医療についての情報を東日本大震災の頃から積極的に発言しておられたためか本書は素人が読むのに相応しい水準の本になっております。

 

 自分の病気に不安を覚えておられる方。あるいは将来「自分がこんな病気になったらどうすればよいのだろう」と考えておられる方は必読の本といえるでしょう。

 本書が皆様方の不安を払拭する一書になることを願っております。

  ただし、本書でもかかれている日本の借金が一千兆円であり、財政赤字によって良質な医療が提供できないという話に対しては賛同できない。

 私ズンダが新書を読む度に頻繁に目にする言葉が財政赤字のせいで日本は何かを削るしかない」という話だが、もういい加減、聞き飽きた。

 

 特に福祉に関して「国による支援を!」と訴えていたり、あるいは「古い考えに拘泥することなく進取的に新しい考え方を摂取しよう!」と主張していたりする学者や知識人が「日本には借金があるから」と言い出す度に、吹いてしまう。

 

 どの分野でも知識の更新があってもよいのではないか。

 私ズンダが新書を勧めている理由は、

 

 

1 読みやすい

2 専門家による最新の学説を学べる

3 値段が安い

 

 

 からである。

 無論、全てが良書であるはずがない。

 しかしそんなことをいっていては、いつまでも学習などできない。

 

 私たちはその都度その都度、自分のできる限りの範囲で不完全なことを一生懸命まなぶしかない。 

 それがリテラシーではないか。

 

 

 人間は専門のことも専門外のことも鑿窓啓牖していくべきであり、その方が人生の質が上がるのであれば、素直に考え方を改めて、多くの人々が幸せになれる道を唱導していくべきではないだろうか。

 

 だからこそ『未来の医療年表』のような本は価値があるのだし、またこういった医療を多くの日本国民が受けられるようなリソース作りをするためにも「財政赤字」という虚妄はうち捨てられるべきであろう。

 お金の問題ではないのである。

 

 

 

 詳しくは以下に紹介したMMTの学者として知られるステファニー・ケルトンによる『財政赤字の神話』。

 もしくは日本人による緊縮財政批判の本やMMT本を読んで頂きたい。

 

 

 

zunnda.hatenablog.com

 

 

 

 

図解 MMT現代貨幣理論の基盤

図解 MMT現代貨幣理論の基盤

 

 

 

図解入門ビジネス 最新MMT[現代貨幣理論]がよくわかる本
 

 


 

 ↓こちらは日本の未来について書いた本。医療と一組にして将来について考えたい人向け。

 

【新書 感想 レビュー】若者が「ヘル朝鮮」と自称する韓国の教育はどうなっているのか。一抹の希望と絶望の社会に触れよう。

 お隣の国、韓国って気になりませんか?

 

 BTS TWICE BLACKPINKなどの有名アイドルたちの活躍*1

 SAMSUNG電子を代表とする大企業の数々。

 はたまた、熾烈な受験競争等々。

 

 有名企業に入社できる人もいれば、落伍者になってしまいチキン屋を始める人もいる。

 近頃では「ヘル(=地獄)朝鮮」と若者が自称するほどに悲惨な状態になった韓国。

 

 この国について知りたい方に、おすすめの本があります。

 春木育美『韓国社会の現在』(中公新書)です。

 

 

 

 今回は我々日本人にとっても馴染みのある“韓国の教育"についてみていきましょう。

 

 

 

 日本と韓国の学歴

 大学進学率

 

 まず韓国人の学歴はどんなものなのか。
 まとめてみましょう。

 

 大卒の若年層(25~34歳)
 韓国      70%
 日本      60%
 OECD平均  44・3%

 

 OECD加盟国の平均と比べてみると、日本も韓国も大卒の人たちが多いことがよくわかりますね。

 どちらも高学歴社会といえます。

 

 

 四年制大学進学率
 
 

 韓国 50%
 日本 53・7%


 男子 65・9%
 女子 73.8%

 

 
 四年生の大学進学率に関しては殆ど変わりが無いようです。
 
 ただし韓国では女子のほうが大学進学率が高いというのは驚きですね。
 日本では四年制大学に限ると一回も男子を上回ったことはありません。

 

 

博士課程取得者 人口百万人あたり

 

 韓国 271人
 日本 118人

 

 

 

 大学院へ進学して博士号を取得している
人たちは上記のような結果でした。

 

 日米英独仏中韓の七カ国のうち日本は6位です。

 そのため日本は先進国の中では「低学歴国家」といわれています。

 大学院へいかないからです。

 

 韓国は3位であり、産業界も博士号取得者を求めています。

 

 日本と違う点。韓国の場合、女も大学へ行かせたい

 

 日本と韓国とで大きな違いは子供の学歴に対してです。

 

 

日本の「4年生大学卒業以上」を期待する割合(学研教育総合研究所)

 男児 78.9%
 女児 69.5%

 

 

 

 日本の親は娘に対して大学卒業を望んでいる人が、息子と比べると減ります。

 中韓ではこの差はありません。

 

 また、日本では所得によって、「どの段階の学校まで進んで欲しいか」という設問に対する答に差があります。

 

 所得上位層は80%と下位層は30%と50ポイントもの差があります。

 韓国ではどの層も大学までいってほしいと思っているようです。

 

 こういう情報からすると、どうも韓国の親のほうが教育熱心だという感じがしますね。

 

 学歴の割に就職率が低すぎる韓国ー30まで無職がザラにいるー

 

 では、肝心の就業率はどうなのでしょうか。

 

 25~34歳人口の韓国の就業率は次のようになっております。

大卒 75%(84%)
高卒 65%(77%)
 
括弧内はOECD加盟国35カ国の平均です。

 

 
 韓国はギリシャ、イタリアに次いで三番目に若者の就業率が低い国なのです。

 これを裏付けるデータとして、韓国の大卒新入社員の平均年齢は男性30・9歳でした。

 なんと韓国人の大卒の多くは30歳になるまで、無職なのです。


 その上、退職時の平均年齢は大企業でも52歳なので、わずか20年程しか就業できないことになります。

 

 こういったことから、韓国では男性の大学進学率が下がってきています。
 彼らは、費用対効果が望めない大学進学を望まないようになりました。

 

 韓国のエリート教育と受験競争の弊

 エリートたちを育てる国家

 

 韓国も日本と同じく天然資源に乏しい国なので、人的資本を大切にしています。

 彼らの国のエリート教育の実態をみていくことにしましょう。

 

 韓国は「早期英才教育」選択と集中が人材育成の基本方針となっています。
 科学技術分野の人材育成頼めに国公立20校の科学高校とよばれるものがあります。
 

 しかし、同時に、政府は「平等」「公平」を重視しているので1974年に高校標準化制度を導入しました。
 
 これは一部の地域を除いて高校入試を廃し、名門高校を一気に解体するという制度です。

 格差を取り除くために上位高校を分解したのですね。
 
 学区内にある高校に皆が進学できるようにしました。
 中間層の学力にあわせた学習指導に変わりました。

 

 しかし今度はトップレベルの生徒の意欲減退や学力低下が問題になります。

 

 身分が固定化された社会と教育との関係

 

 この辺りはほんとうに匙加減が難しいですよね。

 以前紹介した本があります。

 

 エマニュエル・トッド氏による『大分断』です。

 この本には上流階級と下流による教育の格差によって、フランスでは生まれた段階からすでに道程が定まっていることが指摘されています。

 

 固定化された社会では、上流階級である政治家や官僚は下々の人間の気持ちや経済状態について理解を示すことができず、民主主義国家が崩壊していく、と彼は警告をならしていました。

 

 韓国もそういった事態を避けたいために「平等」や「公正」などを意識していたのでしょう。

 

zunnda.hatenablog.com

 

 ちなみに、この中でピエール・ブルデューという社会学者の〈再生産〉という概念が非常に重要なのです。

 最近、ブルデューに教えを受けた夫妻ミシェル・パンソンとモニク・パンソン=シャルロが原案の漫画が出ました。

 

 分かりやすい本なので、購入して、階級の再生産というブルデューの考えにふれてみてください。

  

 

リッチな人々

リッチな人々

 

 

 子供への期待が教育虐待を招く

 

 

 さて、「平等」への反省から2000年には「英才教育振興法」を制定し、エリート教育をさらに強化した科学英才高校を6校、新設しました。

 

 英才教育にかかる費用はすべて無料で、税金による負担です。

 

 中学校1年生から受験可能であり、高度な専門教育を受けることになります。

 

 ところが、こういった短期集中的な英才教育プログラムにはつきものの「プレッシャーによる精神崩壊」が問題になっています。

 

 自殺した韓国の生徒会長

 

 一例をあげましょう。

 ソウルの科学高校で生徒会長を務めていた優秀な人物が投身自殺をはかりました。

 自殺理由は韓国技術科学院(KAIST=Korea Advanced Institute of Science Technology)への飛び級進学に失敗したことでした。

 

 その高校の約半数は飛び級でここへ進学していたのです。

 

 KAISTとは国立のエリート科学大学です。
 全国から0.1%の秀才をあつめ、猛烈な競争をさせて鍛え上げています。
 サムスン電子などの役員はこのKAIST出身の人が多いのだとか。

 

 生徒会長まで務めていた人物が飛び級に失敗し、挙げ句の果てには自死を選んでしまう。

 悲話ですね。

 

 ただ、そんな優秀な人たちだらけが切磋琢磨して競い合っているわけですから、重圧にたえきれずに死を選ぶ人がいてもおかしくないのかもしれません。

 

 実際、大企業に入れないのであれば、まともな就職先がない韓国です。

 自分の未来に絶望し、死ぬという選択肢も社会の構図としてあり得るのです。

 

netgeek.biz

 

 SKYキャッスルというドラマ

 

 2018年、韓国で話題になったドラマの一つに『SKYキャッスル』があります。

 このドラマは「富裕層の歪んだ教育観を浮き彫りにするとともに、受験を突破するために採られる手法に、明白な階級差があることを露呈させたドラマ」だそうです。

 

 ドラマの内容を掻い摘まんで示してみましょう。

 

 

裕福な専業主婦ソジンは娘をソウル大学校の医学部に合格させるために、大学合格を請け負う入試コーディネーターを数億ウォンの成功報酬で雇う。

 コーディネーターは内申書の成績を上げるために学校の教員を買収し、試験問題を前もって入手。
 
 予想問題と称し娘を特訓し、学年トップの成績を収めさせた。

 

 

 

 この買収の話は実際に起きた事件に基づいているそうです。

 教務部長を務めている父親が、同じ学校に通う双子の娘に試験問題と解答を事前に教えて、逮捕されています。

 

 その後の調査で、全国の高校23.7パーセントで親子が教員と生徒として同じ学校に在籍中であることが判明しており、氷山の一角と推測されています。

 

 こういった苛烈な受験競争は「教育虐待」(=親が子供に厳しく勉強をさせて、自由を奪うこと)といわれており、自殺や引きこもりになってしまうことも珍しくないそうです。

 

 一生懸命、国民の教育をしてるけれども

 

 しかしこれだけ選抜した教育をしているにもかかわらず、韓国はパッとしません。

 GDPに対する研究開発予算の割合はOECD加盟国のなかで一位、研究開発投資額では四位。

 論文評価や引用数、企業活動評価では下位圏にあります。

 

 なぜこれだけの投資をしておきながら、ウダツのあがらない状態になっているのでしょうか。

 

 氏が指摘するには次の理由のようです。

 

 5年スパンで大統領が替わるので重点研究分野もかわる。
 大統領の任期が1期五年で再選できないため任期中の業績作りをいそぐからです。

 

 韓国では5~10年をかけた長期研究がないようなのです。
 そういう研究があっても、1年単位で課題達成率が100%に達しなければ不利益をうけるため、挑戦的な研究ができない構造になっているようです。

 

 終わりに
 
 

 というわけで今回は『韓国社会の現在』を紹介してみました。

 ほぼ全編にわたって絶望的な内容です。

 各章の題だけをみてみても、

 

 

「世界で突出する少子化

「貧困化、孤立化、ひとりの時代の到来」
「デジタル先進国の明暗」
「国民総高学歴社会の憂鬱」
「韓国女性のいま」
「絶望的な格差と社会」

 

 

 となっており、どの頁を読んでも「韓国は終わってる」と思わざるを得ないような内容ばかりです。
 
 

 この本は、書店でよくみかける反韓本」(=韓国を叩いて溜飲を下げる内容の本)とは異なります。

 

 しかし、書かれている内容はあまりにも深刻で酸鼻を極めたものです。

 こんな状態が続いて、この国は将来、残っているのだろうか?と思わざるを得ません。
 

 希望は何一つとしてなく、問題尽くめの社会です。

 ありとあらゆる政策が空回りし、一向に好転する可能性が感じられない社会が描かれています。

 

 では、何処が反韓本と異なるのでしょうか。

 

 それは、日本との比較です。

 春木氏のこの本は常に「日本と韓国」とを照らし合わせて書かれております。

 
 韓国と日本は一定程度、同様の悩みを抱えているのです。

 少子化であったり格差であったり、孤立化であったり。

 どれも日本と似ています。
 
 違うのは程度の差だけです。

 

 この点について、以前、当ブログでも紹介した本があります。

 菊地氏の本です。

 今回紹介した春木育美『韓国社会の現在』を読んだ上で、菊池氏の新自由主義の自滅』を読むと、どうして日本と韓国は同様の問題を抱えているのかについて気づかされることでしょう。

 

 これが新自由主義政策を進めていった国の末路だということに。

 

 ぜひとも下記に紹介した本をセットに読み進めてください。

 韓国の問題は韓国だけで終わらず、日本の問題でもあるということがみえてくることでしょう。

 

 我々は韓国の失敗を他山の石としなければなりません。

 

 ↓大変、重い内容です。私ズンダは読んでいて暗澹たる気持ちになりました。

 普通は「いいところもある。希望はまだある」という一節があるのですが、この本にはそういう生やさしいところがありません。

 

 

 

 ↓菊池氏の本です。日本、アメリカ、韓国に共通している問題を剔抉した本です。

 ↓こちらの書物もおすすめです。韓国で起こっている数々の問題はそもそも韓国人の気質だとか能力だとかではなく、政策によるものではないかと考えられるようになるでしょう。

 

 ↓ちなみに、新自由主義についてはこちらをどうぞ。

新自由主義―その歴史的展開と現在

新自由主義―その歴史的展開と現在

 

 

  日本において、菅政権が誕生しました。彼も新自由主義的な構造改革の流れを引き継ぐといわれています。

 いってしまえば、日本の韓国化がどんどんすすんでいくということです。

 

 最低賃金の引き上げを提言するアトキンソン氏の教えを引き継いでいるといwれています。

news.livedoor.com

三橋貴明氏による菅氏が行おうとしている政策の解説です。

まさに、日本の韓国化といってもよいでしょう。

www.youtube.com

 

 さて、

 日本はこの数十年間、ずっと改革だけやっているのですが、これが我々日本人にとっての最大の蠧毒でした。

 

↓その弊害について知りたい方は以下の書物をどうぞ。

 


 
 
 

 

 

  
 

 

  

*1:

 ちなみに、韓国のアイドルなどは世界で大活躍していますが、それに関してもちゃんとした理由があります。

 本書より引用します。

 

 2019年現在、111校の4年生大学、58校の専門大学、合計169校もの大学に演劇映画学科が設置されている(教育省「教育統計主要指数」2019年)。4年制の一般大学だけでも約6割に、演劇映画学科があるのだ。韓国の俳優の演技力や演劇のレベルの高さは、大学で演技の専門教育を受けた人材の層の厚さが背景にある。

 

 なんと、大学の6割に演劇を学べる学科があるというのです。

 世界を魅了する人々を輩出できる理由の一端はここにあったのですね。

【スプラトゥーン2】総プレイ時間 4300時間以上やっている人間が到達した指導法】ウデマエ別指導型プラベ スプラ2でウデマエが停滞しているあなたを引き揚げる最善の方法、そしてスプラ2を中古屋で売るべき時宜【このゲームは才能と年齢です】

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スプラトゥーン2をプレイしておられる皆さん、こんにちは。

 

スプラ2でほぼ毎日プライベートマッチを開いているズンダブログの管理人ことズンダです。

 

ちなみにこの記事をもって私に興味を持たれた方は、ぜひ放送へいらしてください。

一緒にプライベートマッチを楽しみましょう。

 


【概要欄をよんで】生配信 スプラトゥーン2 プラベ募集【初見さん歓迎】

 

今更になりますが、今回は七月二六日に開催された「ウデマエ別指導型プラベ」について、まとめを書いていこうと思います。

 

 概略

参加者は生徒三人、先生三人。プラベを構成するために五人の参加者を募集した。

 

・一人につき一人の先生をつける

・一人につき三十分、プレイをしてもらう

・試合前にステージやルールの解説をする

・試合後に質疑応答

 

 

 

 

www.youtube.com

  

 

 ウデマエ別指導型プラベとは何か?

 

ウデマエを上げるための一つの方法として浮かんだ

 私はこのブログや自身のyoutubeでも、幾度となくスプラトゥーン2でウデマエをあげるにはどうしたらよいのだろうかを話してきました。

 

 

zunnda.hatenablog.com

 

 

 その経験や知識から、こういうふうにすればウデマエは上がるのではないか、という結実を得ることができ、それを放送内で実現したくなったのです。

 

 それがこの「ウデマエ別指導型プラベ」でした。

 

 上手い人にリアルタイムで見てもらい、指導を受けることはなぜ大事なのか

 この企画が浮かんだ背景には次のような経験があったからです。

 

 

①ズンダ自身がスプラ2をやっていた際、一番上手くなったと実感したのは放送中に特定の人物から、ずっと指導されていた。

 

②自己成長のために科学的な見地から発信された各種の本を読んだ結果、人が成長するためには適切な指導者による剴切な教えを相応なに受ける必要がある。

 



 ①について

 放送中に一人の人物からあれこれいわれることで、勉強になる。 

 これは皆さんも習いごとをしたり、部活などで先輩から習ったことがある人は容易に納得なさるでしょう。

 

 時節に合った行動が人生に於いて重要である

 

 ②について

 実はこれが多くの下手なままのプレイヤーに欠けているのではないかと思っています。

 この話のわかりやすい例として、禅の教えに「啐啄同時」という言葉があります。

 これは師匠が悟りを開こうとしている弟子に対して、ちょうど良い時期に物事を教えることを意味しています。

 

 ここで大事なのは「弟子が何かを意識している段階」に於いて教えるということです。

 

 教えてもらう側が「何も考えていない」場合は有効ではないということです。

 

 少し考えてみてもわかりますが、本当の初心者に私たちが教えてあげられることは殆どありません。

 

 たとえば、野球を見たことも聞いたこともない子供に、ボールとバットとグローブを渡して「野球をしろ」といっても、この三つの関係性が何なのかわかる子供がいるでしょうか。

 

 

ボール=丸い球

バット=木や金属の棒

グローブ=皮で出来た変な形の手袋

 

 

 

 こんな印象ではないか。

 

 この三つの道具を使うと、多くの人々を歓喜せしめる野球選手になれる、と想像する子供がいるでしょうか。

 

 そもそも野球自体を知らない場合、そんな想像すら無理ですね。

 

 先生は生徒のことをみて、ある事を教えることのできる好機が来るのを待ち、来たならば教える。

 生徒も自分が「わからないな」と思ったときに先生に尋ねる。

 

 先生も生徒も一本の糸で結ばれており、あちらが揺れればこちらも揺れる、といった関係でなければいけません。

 

 

zunnda.hatenablog.com

 

 

 すると、私たちはなるべく時間を共にし、直接ならうことが最善であるといえるでしょう。

 

 これを基に「ウデマエ別指導型プラベ」を組み立てました。

 

 ということで、7月にこのプラベを実施し、多くの方々に集まって頂き好評嘖々であったと思っております。

 

 ところで、肝心なことは「これで、うまくなれるのか?」ということでしょう。

 

 最高の指導法であるが、誰もXへはいけなかった

  結局、物事に必要なのは【才能】ースプラ2で悩んでいる人たちを救いたいー

 さて、ここまで「ウデマエ別指導型プラベ」の記事を読んで頂いた方には申し訳ないのですが、この指導を受けた三人のウデマエはそこまで変わっていません。

 

 あれから一ヶ月経っていますが、誰もS+→Xへはたどり着けてはいないというのが実情です。

 

 企画しておいてこんな結果に終わっていることは残念なのですが、それが何故なのか理由と覚しきものをかいておきましょう。

 

 

 

①そもそも才能がない

②三〇分の指導だけでは当然のことながら足りない

③プレイ時間が少ない

④このゲームに飽きた

 

 

 

理由としてはこの四点だと思われます。

 

 実際、ゲームだけをしているわけにはいきませんので、当然、学校生活や社会生活を送りながら、スプラトゥーン2をプレイしていくしかありません。

 

 そんな私たちにとって「ウデマエXを目指すのはむずかしい」に決まっているわけですね。

 

 しかしながら、ここで直視せざるを得ない現実が到来してきます。いや、すでに到達していたというべきでしょう。

 

 

 正直言うと、誰だって忙しいのです。

 暇だと思われがちな中高生にも、授業や部活や試験などがあります。

 そこに友達や先生や家族などの煩わしさや恋愛の火照りや凍みなどの起伏。

 

 いくらでも厄介なことごとがゴロゴロと転がっており、彼らの思春期は社会人の荒れ地とかわりません。

 

 

 

 ここで、一つの問題がでてきます。

 

  

 

しかし、その忙しい中でウデマエがあがる人たちがいる。

 

そいつらってなんなの?

 

 

 

  って問いです。

 

  結論からいってしまうと、

 

【新書 感想】江戸時代の人々って結婚やS〇Xについてどう考えていたんだろう、を知りたいあなたへ

 とつぜんですが、江戸時代の一般庶民がどんな性交をしていたか気になりませんか。
 

 私たちは普段の生活でも男女の交わりについて見聞きしています。
 
 テレビのワイドショーは芸能人の不倫や恋愛ネタであふれかえってます。

 女性誌『anan』ではセックス特集などをよくしていますね。

 

 では、江戸の人たちにとって性交とはどういった意味をもっていたのでしょうか。

 今回は沢山美果子『性からよむ江戸時代』(岩波新書)を紹介します。

 

 

  

 

 

 ヤリまくる俳諧師小林一茶

 

 『七番日記』という性交記録

 

 痩蛙まけるな一茶是に有

 

 

 という俳諧を教科書でならった人もいるでしょう。
 芭蕉、蕪村、一茶といえば日本三大俳諧師です。

 

 その一茶は、五二歳のときに二八の菊という女性と結婚します。

 四八から五六歳(文化七年正月~同一五年一二月)までの書かれた『七番日記』は句帳であり、妻である菊との性交日や回数が記してある帳面です。

 

 性交ー快楽のためか子作りのためかー

 子供を育てることは険路であったー短命なる人生ー

 

 始めに述べておくと、一茶は性交に励んだ甲斐もあって三男一女に恵まれます。

 

 しかし、全員約二歳未満で死んでいます。
 発育不全や疱瘡や窒息死、下痢のためです。

 

 この時代において、子供が産むことも、育てることも困難でした。

 本書から鬼頭宏氏の引用を孫引きします。

 

 

 江戸時代には、死ぬ子ども、出産で死ぬ母、家を継ぐ子どもを亡くす親も多くいた。 歴史人口学の研究によれば、出生時の二〇%近くが一歳未満で死に、五歳までの幼児の死亡率は二〇~二五%であった。出産はといえば、江戸後期の出産の一〇~一五%が死産、産後死と難産死は、二一歳から五〇歳の女性の死因の二五%を上回っていた。平均余命は、階層、身分差があるが、男女ともに、一八世紀には三〇代半ば、一九世紀には三〇代後半。平均余命が五〇・一歳、女五四・〇歳と、初めて五〇歳を超えるのは、第二次世界大戦後の一九四七年のことである。(鬼頭宏『人口から読む日本の歴史)』

 

 

人口から読む日本の歴史 (講談社学術文庫)

人口から読む日本の歴史 (講談社学術文庫)

 

 

 

 鬼頭氏の著書によれば江戸時代、人々は三〇代ほどで死んでいたそうです。

 

 更に出生時の二〇%が一年未満で死ぬことを考えれば、一茶にかぎらず、多くの人々にとり子供を産み育てることが、どれだけ大変だったかわかりますね。

 

 精力剤と性指南書

 

 初めの子、千太郎を失った後、一茶は二人目の子供を作るために精力剤である「黄精」や「婬羊かく」を求めて山に入り、八月十二日から二一まで、妻と連日のように交合します。
 
 その数、計三〇回です。

 

 五〇を超えている彼は、たった九日間で三十回も行為に及んでいます。

 

 驚くべき回数で、これだけみると、一茶の性欲の強さに唖然とします。

 または長男を亡くした悲しみからなのでしょうか。

 

 しかし、一茶が単なる性豪だったからではありません。

 ここに当時流行っていた性交指南書の影響がみてとれるからです。

 

 月水と懐妊

 

 元禄五年(一六九二年)に初版本が出て以降、増補され続けた本があります。

 

 女重宝記大成といいます。
 
 この本には女性の懐妊には月水(月経のこと)が関係していると説明されております。

 

 「月行(月経)は三十時を定数にして・・・・・・月候(月経の兆候)すでにつきんとする二十八九時が、子を孕むべき佳時也」とあります。

 

 つまり、月経が終わった後に性交をすると妊娠しやすいと考えられていました

 

 また、一茶の住んでいた信濃国北安曇郡会染村で発見された明和九年(一七七二)の『神秘命伝』には、

 

 「月水の後の、七日に、はらむものなれば、一四日を過ぎて、ことを行えば、子なし」ともかいてあります。

 

 月経の後、七日間に女は子供を孕む可能性がある。しかし一四日をすぎたら、孕まない、というわけです。


 奇しくも一茶の性交は月水の終わった八月八日から「子なし」とされる八月二二日の前で終わっています

 

 要するに一茶が三十回も性交した理由は性欲だけではなく、当時、流布していた本の影響下にあったというわけですね。

 

 しかし、こういってはなんですが、どうして一茶はここまで子供をほしがったのでしょう。

 

 現代人には分かりにくい理由がまだありそうですね。
 
 実は江戸時代の中葉から、上流層の結婚観が下々まで広がっていったことがわかっています。

 

 江戸時代に始まる「家制」
 
 

 家族をもつことが当然の社会へ 
 
 

 さて、江戸幕府は一八世紀末から一九世紀初頭に人口増加策を打ち出します。

 

 事の始まりは犬公方として有名な徳川綱吉の「生類憐れみの制」の第一条「捨子禁止令」です。

 

 捨て子の養育について発見者や村や町などの共同体で責任をもつべきだとしました。
 

 地主や大家などは地借、店借が妊娠した場合は届け出をさせ、出産、流産、三歳未満の乳幼児の死亡、また養子に遣わす場合は帳面を作成することとなりました。

 

 こうすることで人口を把握するための人別帳の確立にも寄与します。

 

 その後、明和四年(一七六七)には間引きは「不仁」(=人の情にはずれた行為)というお触れが全国煮出されました。

 

 こうして堕胎や間引きを禁ずることで人口の増加をはかったのです。

 

 同時に幕府による「性と生殖への介入」が進行していきます。
 所謂、「生権力」*1ですね。
 

 更には天保一四年になると、縁談願いなく婚姻したり、懐胎届・出生届を出さないことを咎める触れも出されます。

 

 「養生論」の展開と一般層への啓発

 

 貝原益軒の『養生論』は有名な書物です。 

 今でも医学関係の新書や単行本などで引用されることも多い。

 

 この本の中には禁欲を説いた項目があり、無闇矢鱈と男女が繋がりあうことは長寿を害し、寿命を縮めると述べ、禁じているのです。

 
 ところが、これもまた江戸後期の一八世後半に至ると、この手の実用書が形を変えながら民衆一般に広がっていきます。

 

 それは「家」を維持、存続させるための教諭本として機能しました。

 『長命衛生論 上之巻』(本井子承)や『養生弁』(水野沢斎)にはこんなことがかかれています。

 

・性欲によって夫婦関係が壊れてはならない。
 
・子供をつくるために性行為はある。

 

 

 江戸後期において、性交の是非は快楽や長寿ではなく、あくまで「家」を維持することにあったのです。

 

 前述した小林一茶の性交も、この文脈において位置づけることができるでしょう。
 
 

 「家」意識が民衆の間にも広がる

 

 こういった幕府の政策により「婚姻・性・生殖」が一致します。

 

 つまり、結婚し、性交し、子供を育てるということが一繋がりになったのです。

 それまでは、婚前交渉や婚外子を問題視する庶民はそう多くはなかったのです。

 

 あくまで武士や上層農民が「家」と「家」との婚姻を重視し、結婚前の男女の性交を禁じていただけでした。

 

 本書では倉知克直氏の『「男女和合」』(「性を考える」ーわたしたちの講義所収)をひいて次のようにいっておられます。

 

 夫婦が労働の基本的な単位であった民衆の間では、「嫁は社会的経験を積んだ即戦力であることが期待され」、結婚年齢も上層の人々に比べて高く、結婚前の「自由」な性関係が認められ、「性的関係と結婚とは全く別のもの」であった。(太字はズンダ)

 

 

 

 というように農村と武家や上層農民とでは性的な意識が異なってたのです。
 
 婚姻せずに恋人関係になることを「姻合い」や「両人之相対」「ころび合」とよんでいました。

 都市下層の人たちは縁談をこばむこともあり、「馴れ合ひ夫婦」などになります。


 さて、こうした政策が進んでいくと、若者は性行為を易々と行えなくなります。
 
 いちいち結婚しなければいけないからです。

 

 かくして性欲をもてました若者達が増加し、町場の遊所が盛んになっていきます。

 

 この辺りの性売買については割愛しますが、気になる方は本書の第四章をどうぞ。
 
 

 江戸の性意識を明治政府も引き継ぐ

 

 江戸時代までは妊娠や出産管理政策は村役人を筆頭に、共同体を媒介して行われていました。
  
 明治になると近代国家による直接的な支配が主となります。

 そのときの基礎単位が「家」です。
 明治政府は明確に「家」制度を眼目に置いて制度設計をしていきます。

 政府は結婚や子供などへの性意識を変えるために次のようなことをやっていきます。


 
 

明治元年(一八六八)、堕胎や堕胎約の販売を禁ずる。
  
・明治六年(一八七三)、「私生児」の規定が明確に。産んだ女性が育てるべきとされる。
 
・明治八(一八七五)、法律婚主義へ。

・明治一五(一八八三)、堕胎は犯罪に。

 

 

 

 こうして、現在生きている私たちにとって常識になった制度が組み立てられていったのでした。

 

 江戸時代は性に「おおらか」?

 「おおらか」な層や時代はあったが……

 

 さて、江戸時代について書かれた本を読むと「江戸人は性におおらかであった」という記述をよく目にします。

 

 この本でも引用されていますが、社会学者の赤川学氏は次のようにいっておられます。

 

 近代日本における性の変容を論じる民俗学者・社会史家・社会学者・社会評論家には、現代でも広く共有される歴史的<常識>が存在するように思われる

 

 

セクシュアリティの歴史社会学

セクシュアリティの歴史社会学

  • 作者:赤川 学
  • 発売日: 1999/04/01
  • メディア: 単行本
 

 

 今回紹介した本の著者である沢山氏はこれを引用し、次のように述べておられます。
 

 江戸時代の性は「おおらか」という私たちの常識の問い直しを迫る。仲人を立てた婚姻以外は不義・密通とし、婚姻内の夫婦の生殖のための性を特権化する婚姻・性・生殖の一致という性規範。そうした性規範は、家の維持・存続への人々の願いを媒介に民衆のなかにも入り込んでいった。

 

 

江戸幻想批判―「江戸の性愛」礼讃論を撃つ

江戸幻想批判―「江戸の性愛」礼讃論を撃つ

  • 作者:小谷野 敦
  • 発売日: 2008/12/12
  • メディア: 単行本
 

 

 実際、本記事でもみてきましたが、江戸時代は階層によって性的な規範が異なっていました。

 

・武士や上層農民は「家」のための結婚
・農民を代表とする一般層は自由

 

 

 江戸中期から幕府の政策が変化することで、それが庶民達の思想や行動にも影響を与え、上層の人たちの生活様式へと変容していくわけですね。

 

 すると「おおらか」だといっても、実態は徐々に「きびしく」なっていったといえるでしょう。

 

 この本はそういった江戸時代を語る際の「おおらか」という認識に疑問を投げかけているといえるでしょう。

 

 終わりに

 

 江戸時代の性についての本を紹介しました。
 

 第一章と第五章を中心にまとめた記事です。


 このほかにも「不義の子」や「堕胎」や「性売買」についても書いてある本なので、興味のある方はぜひご覧になってください。

 

 

 

 

江戸の捨て子たち―その肖像 (歴史文化ライブラリー)
 

 

 ↓ちなみにちくま新書『近世史講義』は江戸期の女性がどんな活動をしていたかを中心にまとめた本になっている。以前、紹介したが、こちらも実に面白い。

 

zunnda.hatenablog.com

 

 

近世史講義 (ちくま新書)

近世史講義 (ちくま新書)

  • 発売日: 2020/01/07
  • メディア: 新書
 

 


 

 では、また。
 ズンダでした。
 


 

よりよく生きるために!実証された「性格」について考え、本当のあなたを発見してみませんか

 

 

「自分ってなんて性格が悪いんだろ」

「あの人の性格がうらやましい」

 

 そんなことを考えたことってありませんか。

 誰しもが自分や他人の性格を比較し、悩んだ経験はあるとおもいます。

 

 ところで、この「性格」とはいったい何なのでしょうか?
 
 むやみに自分を責めたり、他人を羨んだりするよりも、「性格」とは何かを一緒に理解していきましょう。

 

 また、メンタリストDaiGo氏の動画を好んでみておられる方にもこういった書物は読む価値があるといえるでしょう。

 

 性格学の入門書として読んで頂きたいところです。

 

 今回紹介する本は小塩真司『性格とは何か』(中公新書)です。

 

 

 

 

 

 そもそも「性格」ってなんですか?

 

 性格の捉え方ー類型論と特性論ー

  性格って何と考えても、漠然としてますね。

 

 学者の方々は性格をどのように考えることで、研究を進めておられるのでしょうか?

 

 私たちは人を捉える際に典型的な分類をしています。
 
 たとえば、「あの人は優しい」「あの人はきびしい」「あの人は不真面目」などいうように。

 

 こういう大雑把な分け方を「分類論」といいます。 

 

 しかし、「優しい」や「不真面目」と一口にいっても、その度合いが異なりますね。

 これだけでは性格を表すには弱い。

 

 そこで、
 こういった度合いを「低い」「中程度」「高い」と程度を意識して表現することを「特性論」といいます。

 

 引用します。

 

 特性論の考え方は、学力テストを想像してみるとわかりやすい。国語、数学、理科、社会、英語という5科目の学力テストを考えてみよう。国語は100点で得意だけれど数学は50点で苦手であるとか、社会と理科は90点で得意だけれど英語は40点で苦手であるとか、どの科目も得意ですべて80点以上であるとか、どの科目も苦手であるとか、各教科の得点をそれぞれ考えることによって、さまざまな組み合わせを細かく表現できる。

 

 

 特性論と使うことで、人の性格をだいぶ細かくみることができるわけですね。

 

 小川氏がいうように「5つの性格の要素を用意して、それぞれを5段階で表現できれば、その組み合わせは5の5乗となり、3125通りの人物を描くことができるようになる」

 

 ビッグ・ファイヴという性格診断

 

 特性論から、1980年~1990年にかけて5つの次元(ビッグ・ファイヴ)で人間の性格をあらわすことができるという研究が注目を集めました。

 

 いまだに心理学の研究者達から支持を集めています。

 

 

 

 

 では、5つの次元とはどういったものなのでしょう。

 

・外向性   活発さや明るさ
神経症傾向 ネガティヴ
・開放性   興味の強さ
・協調性   やさしさや人を許す寛大さ
・勤勉性   まじめさ 

 

 

 このビッグ・ファイヴ自体は高くても低くて問題があります。

 

 外向性が高い人は誰とでも積極的に関わろうとしたり、新しいことに挑戦しますが、それは同時にリスクを考えないで行動することも意味します。

 

 また、内向性だとしても、仕事の成果や集中力に関しては外向性を上回るという研究すらあるほどなので一概に悪いとはいえません。

 

 

 

 
 この記事では割愛しますが、近年では、ビッグファイブの他にもHEXACOモデルダークトライアドなどの性格特性も考え出されています。

 

 

サイコパス (文春新書)

サイコパス (文春新書)

 

 

 

人は、なぜ他人を許せないのか?

人は、なぜ他人を許せないのか?

 

 

 こうした、性格特性が有効なものかどうかは常に「信頼性」と「妥当性」という秤にかけられて研究されています。

 

 小川氏の言葉をかりながらまとめてみました。

 

 信頼性


 ・測定された値がどれくらい安定しているかを問題にする観点。

 時間を超えてある程度安定して測定できるのか、また用意した複数の質問項目がだいたい同じような得点を示すのかということを確かめる。(中略)たとえば外向性を測定する複数の質問項目(他の人とよく会話をしますか、人と一緒にいるのが好きですか、強い刺激を求めますか、など)に対して、ある個人がおよそ同じような回答を行うということである。
 
 妥当性


 ・本当に測りたい内容を測定できるのかを問題にする観点である。

 たとえば、ある熟語を理解できないと解くことが出来ない数学の問題があるとしよう。その場合、測定しているのは数学の能力だと言えるのだろうか。それは言葉の問題であり、数学の問題からややずれてはいないだろうか。

 戦前の数学の教科書は文語文でかかれていたりする。現在の口語文で書かれていれば解けるはずの問題が、言葉の違いで解けなくなれば、それは数学の問題としての妥当性を欠いている。

 

 

 

 何かの特性が秀でていることは、必ずしもいい結果を生むわけではない。

 

 勤勉性は仕事や長寿に大事な要素

 

 

 さて、この支持されているビッグファイブの五つの項目は、心理学の各研究でも利用されることが多いのであります。

 

 たとえばビッグファイブにある「勤勉性」が「長生き」や「浮気」などに関連しているかどうか、といった一つの目安になっているのですね。

 

 では、そういったビッグファイブが意識された研究を本書から拾っていきましょう。

 

 多くの人たちにとって関心があるのは仕事や勉強がうまくいきやすい特性でしょう。


 オーストラリアの心理学者アーサー・ポロパットやBarrick,M.R,&Mount,M.K.などの研究によると以下のことがわかっています。

 

 結論からいうと、「勤勉性」こそが学業成績や仕事の評価(人事上の評価、生産性の高さ、収入の多さ)にも関連している特性でした。

 

 一考すると大事そうにみえる外向性や協調性なども成功と関係していそうですが、実際はあまり関係性がないようです。

 

 また、アメリカの心理学者ハワード・フリードマンたちの寿命についての研究でも勤勉性は関連があることがわかっています。


 1920年代、彼らは11歳の子供達1200人に研究に参加して貰います。
 1986年までそのうち、約6割がまだ生存していました。

 そこでも「勤勉性」の高い子供たちほど長生きだったのです。

 

 理由としては

・過度な飲酒をしない
・違法な薬物をしようしない
・不健康な食生活を避ける
・危険な運転行為をしない
・危険な性交渉をしない
・喫煙率は低い
・暴力行為が少ない

 

 

 ということが挙げられています。

 自分自身を抑制するような生活スタイルこそが彼らの長寿に関係していたのです。

 

 性格特性は変えられる

 

 では、勤勉性を身につけるようにすれば、私たちは幸せになれるかというと、それは難しい。

 

 というのも勤勉性が高い人は自然にそういった抑制行動をとれるのであって、無理をしているわけではないからです。

 

 

 勤勉性はこの本に書いてある調査の中でもおよそ「善い人生」をおくろうとおもうと多くの点で有効であることがわかります。
 

 読者諸子には「でも、勤勉じゃないよ」という人もいらっしゃるでしょう。

 

 もし、長生きしたいとか浮気したくないとかであれば、勤勉性を好む性格に自身を変える必要があります。
 
 そして性格を変えることができるかという実験はすでに行われています。

 

 Hudson,N.W.,Briley,D.A,Chopik,&Derringer,J.らによる研究です。

 小塩氏の説明をまとめてみました。
 
 

 自分が変えたいと思う性格特性を指定し、変えたい方向も考えます。

 「外向性を高くする」だったり「神経症傾向を低くする」だったりと。

 外向性を高めたいのであれば、お店の店員と必ず話したり、他人のために扉やエレベーターのドアをあけてあげます。

 

 これを続けて予定通りに実行できたら、更に難しめのことに挑戦します。

 

 授業中に手を挙げて発言したり、何かしらかのイベントを開催したりといったことをです。

 

 さて、毎週二つの挑戦をクリアした学生は三ヶ月後には性格特性の得点が変化しました。

 

 ただし、表面的にこなしただけの学生はたいして変化しませんでした。
 
 その人が心の底から、その性格特性を変えたいと願わないかぎりは変化はしないものなのです。

 

 特性は環境や複合的な状態によって悪影響も与える

 

 

 ちなみに勤勉性が高い人が必ずしもいいわけではありません。

 というのも性格特性は複合的に影響しあうからです。

 

 勤勉性と神経症傾向が高い人がいたとしましょう。

 

 そういう人は所謂「完璧主義」になりやすいのです。

*1

 

 

 

 

 

 なぜかというと、勤勉性ゆえに目標を明確に定め、邁進します。
 高い目標を達成しようとし、それに至らない場合、すべてが失敗だと考えるようになります。

 

 すると、神経症傾向が強いので、強烈な落ち込みや抑うつ、自己嫌悪に陥ってしまうのです。

 

 このように長生きや仕事での成功をもたらす「勤勉性」ですら、他の性格特性との兼ね合いや環境によっては、個人を苦しめる元兇となりかねないことには注意がいります。

 

 ↓逆に性格なんて変えたくない。今のままの自分でも人生を生きていきたい。自分を認めてあげたい、という人向けの本。性格を変えることが正解なわけではない。

「変えるという選択肢もあるよ」と思えば良い。

 

 

 あなたは自分の性格を知った方がよい

 

 ここに「なぜ、性格を知る必要があるのか」という答えがあります。

 

 私たちには遺伝や環境によって、性格が形づくられていきます。

 それは青年期の激しい変化を終えた後も緩やかになりながら安定していくいわれています。(「疾風怒濤の時代」→「成熟の原則」→「累積的な一貫性の原則」)

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本書より。年齢による特性の変化の度合いをあらわしたもの。

 

 

 こうして自分たちが社会で生きてくために順応できるような居場所を見つけたり作ったりしていくわけです。

 

 「今、何の特性を伸ばしたり、あるいは抑えたりすれば、自分は満足できるだろうか」を理解しておくために自身の性格を知ることが大事なのです。
 
 小川氏の言を引きます。

 

 私たちが自分の性格について知るメリットは、自分にとって居心地のいい場所がどこであるかを理解し、その居心地のいい環境を自分自身で作りだすことにつながる点にある。(中略)自分が「こうありたい」という目標を達成するために、いかに自分自身を目標に向かわせつつ居心地のいい環境に置くか、工夫していくヒントを得るところに、自分の性格を知る意義がある。

 

 

 終わりに

 

 今回はこの本の「序章」「第五章」「終章」を中心にまとめてみました。

 このほかにも「国民性・県民性は存在するのか」「人々はどんどん賢く、ネガティブになっている?」「男性と女性は何が同じで何が違うのか」などといった興味深い章もあります。

 

 

 

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 興味のある方はぜひお読みになるとよいでしょう。

 

 では、またお会いしましょう。
 ズンダでした。

 

 

 次回は春木育美『韓国社会の現在 超少子化、貧困・孤立化、デジタル化』(中公新書)を紹介します。 
 

 

 

 

*1:※完璧主義は英語のperfectionismの日本語訳として世間でよく使われている。

 しかし、小川氏は「完璧」という言葉が中国の古典に来歴があり、〈立派〉という意味も含んでいる。

 perfectionismという言葉は、完全を目指すせいでよくない結果が待ち受けているという意味があるので、用語の訳としては「完全主義」のほうがよいでのはないか、と提言している。

歴史教科書ではさっと流される戦後史。ちくま新書『昭和史講義』を紹介する!

 昭和史の謎が遂に解かれる

 戦争が終わって75年が経ちました。
 
 私たちの多くは戦後社会の人間であります。

 こうした中、戦後の歴史研究はどんどん進んでおります。

 学校教育で「現代史」をならうでしょう。
 その「現代史」研究の最前線でどのようなことがいわれているのか知りたい方に必読の本がついにちくま新書から発刊されました。

 今回はこの本の中から2つほどの講義を紹介していきましょう。

 

 

昭和史講義【戦後篇】(上) (ちくま新書)

昭和史講義【戦後篇】(上) (ちくま新書)

 
昭和史講義【戦後篇】(下) (ちくま新書)

昭和史講義【戦後篇】(下) (ちくま新書)

 

  

 

 

 ラストボロフ事件ー米ソ情報戦と日本ー

 松本清張『日本の黒い霧』から60年

 

 ラストボロフ事件、というのをご存じでしょうか。

 作家、松本清張がネタにしたスパイにまつわる事件です。

 引用します。

 

 在日ソ連代表部二等書記官のユリ・ラストボロフが1954年一月二四日にアメリカに亡命を行い、日本国内で多数のエージェントを用いて諜報活動を行っていた実態を暴露した事件である。


 戦後、外地にいた日本人は外国から日本に帰ってきます。
 これを「引揚(ひきあげ)」といいます。

 

 約70万人の日本軍人がソ連支配領域で捕虜となっており、引揚に関する米ソの協定が一九四六年一二月一九日に締結されます。


 アメリカはソ連がこの協定を隠れ蓑にして日本国内に諜報員を浸透させようとしていることを摑んでいました。

 

 後にCICとCIAがラストボロフを尋問した際、帰還者のうち250人を間諜として扱えると供述していたことがわかっています。

 

 このとき、ソ連にいた日本人の多くは帰国条件としてソ連のスパイとして日本に戻れ。そして、要職に就いて、日本の再軍備計画や国内政治関係、米軍の情報を流せ」という契約を交わすことを余儀なくされます。

 

 つまり、日本に帰るためにソ連のスパイになることが要請されたのです。

 

 この事件自体はそれなりに有名なのですが、この『昭和史講義』の価値は研究の進展を教えてくれるところにあります。

 

 松本清張が『日本の黒い霧』所収「ラストヴォロフ事件」で強調したのはラストボロフの供述はアメリカによる捏造であり、アメリカがソ連に対して優勢に立とうとするための策ではないかという謀略性を疑うものでした。

 

 しかし、近年、アメリカ側がこの当時の資料を公開したことによって、この松本清張の記述に間違いがあることがわかりました。


 CIC(対敵諜報部)作成の個人ファイルがあり、約七五〇枚に及ぶCICラストボロフファイルがあります。
 
 また、ラストボロフが言明した日本人スパイ16名のファイルもありました。

 

 アメリカのでっち上げではなかった

 

 では、松本との何処がおかしかったのか。

 引用します。
 
 

 例えば事件容疑者の一人である日暮信則について松本は、決してラストボロフに情報を提供したことはなく、またアメリカ情報機関と協力しソ連の脅威の演出に協力した可能性が高いとしている。しかしCIC日暮信則ファイルによって、松本の当該記述は明らかな誤りであることが分かる。CIC日暮信則ファイル内のラストボロフ供述では、日暮がラストボロフに提供した情報の詳細や、その情報がソ連代表部から高く評価され実際に活用されたことが詳しく記されている。また日暮がアメリカ情報機関に協力して供述を捏造した事実もない。(註:太字はズンダによる)


 つまり、松本はアメリカの企みによって日暮が対ソ連への世論工作に利用された人物、というふうに書いていたわけです。

 

 しかし公開されたファイルによって、彼がスパイだと確定したのですね。

 アメリカはソ連から日本に還ってくる人々がスパイになっていることを当然しっていました。

 

 

 

 それがCICが日本占領期に行った「プロジェクト・スティッチ作戦」です。

 

 この作戦は

 

 

ソ連の間諜になった人をCICが勧誘し、二重スパイさせること

ソ連から接触を受けた場合、米軍と局に知らせる対米誓約を行わせる。

 

 

 というものでした。

 まるで映画みたいですが、実際に行われていた作戦です。

 

 敗戦国・日本の悲劇

 

 ここで私たち日本人が考えなければならないことは「敗戦国・日本」の姿です。

 

 戦争に負けたために抑留者は現地で奴隷のように扱われます。

 ※ちなみにこの本に書いてあるが、シベリア抑留の悲惨さが語られることが多いが、イギリスが管理していたアジアにおいても、日本人は捕虜として扱われることなく、JSP(降伏日本人)という名目で、無給で労働をさせられていた。

 

 スパイとして帰還した後は、ソ連を出し抜くためにアメリカのスパイとしても利用されてしまう。

 こんな悲しいことがあるでしょうか。

 また、敗戦国としての惨めさはラストボロフの亡命にも見いだせます。

 

 松本清張の正しい指摘


 
 先にも述べたように、新資料が公開されたことにより、松本清張の明白な誤りがわかりました。

 ですが、松本の指摘に頷ける部分もあります。

 彼はラストボロフの亡命は講和条約で成立した日本の主権を侵犯するものだと指摘しています。

 不法出国してアメリカへ渡っているわけですからね。

 

 そして、この事件について、未だに日本警察やソ連側からの資料が出ていないという事実も忘れてはならないでしょう。

 

 あくまで第一四講で描かれた事件の真相はアメリカ側の資料なのです。

 そう考えると、松本清張の誤りとされている部分も覆る可能性がある、のかもしれませんね。

 

 近い将来、この事件の全貌が明かされることはあるのでしょうか。


 

 朝鮮戦争で日本が果たした役割

 日本の戦後を決めた戦争

 

 朝鮮戦争北朝鮮が韓国に南侵し、征服を目論んだ戦争です。

 これに対してアメリカ、カナダ、フィリピン、ベルギー、オーストラリアなどの国連加盟国によって国連軍が参戦します。
 
 この戦争により戦後日本への影響と道のりは次のようになりました。

 

 

 ・サンフランシスコ条約において、「全面講和」を望む声があったが、「多数講和」が主流となった。

 

 ・日本は「民主主義世界」と「共産主義世界」の「二つの世界」のうち民主主義陣営を選ぶことになった。

 

 ・戦前から日本の貿易は東アジアを中心に行われていたため当時の吉田首相は中国との貿易を望んでいたが、朝鮮戦争によって「特需」が発生。更にアメリカが日本の共産化を防ぐために「日米経済協力」を開始、貿易対象がアメリカと東南アジアになる。

 

 ・明治以来、朝鮮は日本において安全保障上、重要であった。
 山県有朋朝鮮半島の防護を唱えていた。 戦後、アメリカが朝鮮問題に絡むことで地政学的紛争要因を日本に代わって受け持つことになった。
 ※アメリカの外交官ジョージ・ケナンは「今日われわれは、ほとんど半世紀にわたって朝鮮および満州方面で日本が直面しかつ担ってきた問題と責任とを引き継いだのである」(『アメリカ外交50年』)

 

 ・日本はアメリカに安全保障を委ねることで、軽武装と経済成長とを得ることができるようになった。

 

 こういう点で朝鮮戦争は現在までの日本の道程の端緒とみることができるでしょう。

 


  朝鮮戦争に於ける日本人の貢献

 

 さて、ここまでみると、あたかもアメリカのおかげで朝鮮戦争は終わりを迎え、日本は漁夫の利を得ることができたかのように思われるでしょう。

 

 しかし、この戦争は日本人のアメリカへの協力がなければとても成功しえませんでした。

 

 金大中大統領は「日本という後方基地、協力してくれる国があることが、どれほど韓国に大きな助けになるか」(『読売新聞』二〇〇二年七月二六日)といっています。

 

 また、ロバート・マーフィー初代駐日大使も次のように述べています。
 
 

 日本人は、驚くべき速さで、彼らの四つの島を一つの巨大な補給倉庫に変えてしまった。このことがなかったならば、朝鮮戦争は戦うことはできなかったはずである。日本人の船舶と鉄道の専門家たちは、彼ら自身の熟練した部下とともに朝鮮に行って、アメリカならびに国連の司令部のもとで働いた。この朝鮮をよく知っている日本人専門家たち数千人の援助がなかったならば、朝鮮に残留するのにとても困難な目にあったことであろう(ロバート・マーフィ『軍人のなかの外交官』)。

 

 

 と述べています。

 そしてこれは、戦前の「遺産」を有効活用できたからなのです。

 では、日本人はどういった支援を行っていたのでしょうか。
 見てみましょう。

 

 

貢献の第一
 ・在日米軍基地の使用。
 七〇〇カ所を超え、総面積が大阪府の広さに匹敵していた。
 出撃、前進、兵站・補給、訓練(演習)の基地として機能した。

 

貢献の第二
 ・日本は掃海部隊による機雷除去を行った。また、輸送拠点としての港湾、軍需品(兵器・弾薬)の生産・整備・修理・補給、国鉄・船舶による輸送、病院など医療協力、地方自治体による基地労働者募集・基地や港湾の警備といったハード面のみならず、それに付随するマンパワーなどソフトの面においても重要な役割を果たしていた。
 基地労務者、工場労働者、看護婦、船員、船上・埠頭荷役、水先案内、艦艇修理、浚渫工事など。

 

 第三の貢献・警察予備隊の創設、すなわち「再軍備」です。

 

 

 こういった物資や役務の調達がいわゆる「特需」を生みます。

 

 戦争一年目 三億二九〇〇万ドル
   二年目 三億三一〇〇万ドル
   三年目 四億九〇〇〇万ドル
   

 

 鉱業生産は戦前の水準を超え、日本の経済復興のきっかけとなりました。

 

 

 山口県に韓国の亡命政権が作られる可能性があった

 

 ところで個人的に面白いなと思ったのは、国連軍が釜山前面にまで追い詰められた場合、六万人規模の韓国の亡命政権が山口に設置される構想があったということです。

 もし、国連軍が敗北していたら、実現していたのでしょうか。

 

 ということで、今回の記事ではちくま新書『昭和史講義 戦後編』を紹介してみました。

 本書では他にも、「憲法九条はそもそも肯定されていた根拠が弱い」と述べる第7講義「新憲法と世論の変遷」や一九九〇年代から研究が進んだ第四講「復員と引揚げ」など、敗戦後の日本がどのように進んできたかを俗説や旧説を排して説明している講義が多数ならんでおります。

 

 戦後75年を期に、日本の歩みを確認したいかたはぜひお手にとってご覧になるとよいでしょう。

 

 

 

昭和史講義【戦後篇】(上) (ちくま新書)

昭和史講義【戦後篇】(上) (ちくま新書)

 

 

 

昭和史講義【戦後篇】(下) (ちくま新書)

昭和史講義【戦後篇】(下) (ちくま新書)

 

 

 

 ↓江戸時代講義もでてます。それについて紹介した記事です。

zunnda.hatenablog.com

 

 

   

平安時代の貴族ってどんな生活を送っていたの?分かりやすい本、あります!

 

 平安時代の貴族って優雅に思えませんか?

 和歌を歌い、蹴鞠で遊び、豪奢の限りをつくしているような。

 

 しかし、これは平安貴族の綺麗な一面でしかありません。

 彼らも私たちと同じ人間であり、そこには綺麗なだけでは済まされない現実生活があったのです。

 

 今回はそういった平安貴族の生活がイラスト付で詳しく解説された本『平安貴族 嫉妬と寵愛の作法』を紹介していくことにしましょう。

 

平安貴族 嫉妬と寵愛の作法

平安貴族 嫉妬と寵愛の作法

  • 発売日: 2020/06/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 


 虐められていた源氏物語作者 紫式部

 

 天皇が住んでいた殿舎の後ろには後宮がありました。
 
 後宮は后妃や皇太后、女官などが住んでおり、女性だらけ。

 当然、陰湿な虐めも発生します。

 

 『源氏物語』の作者である紫式部は朝廷の権力者である一条天皇中宮である道長の娘、彰子(しょうし)に女房として仕えることになりました。

 

 女房とは宮で働く女性のことです。もともとはそこで働く女性達の住む場を「女房」(房=部屋)といっていましたが、徐々に人のことも指すようになったのです。
 
 さて、初出仕の日、紫式部は周囲に無視されるという虐めを受けてしまいます。

 そして、彼女は五ヶ月の間、出仕を拒否することに。

 

 どうして同僚の女房達は紫式部を無視したのでしょうか?

 

 理由は嫉妬です。

 

 紫式部は『源氏物語』の作者であり、受領である父から漢文の教育も受けていた教養ある女性でした。

 

 一条天皇から「日本書紀を読んでいるに違いない」といわれたことから、同僚達に日本紀の御局」という渾名でからかわれるようになってしまいます。
 
 紫式部は虐めをどう回避したか

 

 しかし、紫式部も馬鹿ではありません。
 同僚達の嫉視から逃れるために自分をマヌケで頓馬な人間にみせかけます。

 

 そうすることで、彼女は宮仕えをこなしていくことができたのでした。

 

 何時の時代も、人に嫉妬されることは恐いものですね。
 
 持たざるモノからの怨恨感情ほど厄介なものはありません。

 ↓下の記事では人間関係をうまくこなすための方法と本を紹介しています。

 

 

 

zunnda.hatenablog.com

 

 

 貴族の恋愛ー顔も知らない女と結婚ー

 

 貴族の姫君達は成人式(裳着)をすぎると、男の人たちとは顔を合わすことがなくなります。

 裳着の年齢は12~14歳の十代前半。


 
 女の人はこの年齢になると、顔を見合わせて話すことはしませんでした。

 必ず、「御簾越し(みすごし)」に扇などで顔を隠しながら話をしていたのです。

 更に驚くことに、平安中期になると、兄弟らとも御簾越しのやりとりになっていました。

 

 そんな彼女らも当然、誰かと結婚するわけです。

 が、自分から男性に言い寄るということはできません。
 
 

 もちろん、男性も女性の顔をみることはできません。

 そこで、「文通」の出番です。

 手紙には必ず和歌がそえられ、和歌がうまければうまいほど、モテました。
 
 和歌は、まともな人間だと思われるために必須の教養だったわけです。

 このやり取りによって、お互いの気持ちがもありあがり、初夜を迎えます。

 男性は女性宅を訪れます。
 
 当時は招婿婚(妻問婚)ともいわれ、婿入りするのが当たり前でした。

 一夫多妻の貴族社会に於いてはそれが適していたのです。

 

 吉日の夜11頃から朝の5時まで滞在するのが普通でした。

 営みを終えた後、男性は「後朝(きぬぎぬ)の文」を送ります。

 この辺、男性が彼女とデートした後にLINEやメールなどで色々と気遣う文を送るのに似てますね。

 
 これを三夜つづけることで正式な結婚となります。

 
 しかし、相手の顔もわからないまま、文通のみでやりとりし、恋いに落ちるとはすごい習慣ですよね。

 

 今の時代ではあまり考えにくい。

 

 ただ、ネット恋愛などがあるように、平安貴族の恋愛と似たことは現代でも起こっているといえるのかもしれませんね。

 

 ↓平安時代の女子について書かれた本です。外人が見た古代日本人の生活振りは

今の我々からみたものと同じなのかもしれません。

 

 

 

 

 婿入り婚は男にとって危険な制度だった。

 


 平安時代にも離婚の制度はありました。
 当時の法律をまとめた「大宝律令」によると、以下の通りです。

 

 ①子供がうまれないこと
 ②淫乱であること
 ③舅につかえないこと
 ④おしゃべりなこと
 ⑤盗癖があること
 ⑥嫉妬が激しいこと
 ⑦治りにくい病気を持っていること

 

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イラスト部分。わかりやすい。

 このうち「一つでも」あてはまれば離婚することができました。

 

 これらは夫が妻に対して離縁をたたきつける条件でした。

 

 こうしてみると、平安時代の離婚は男性優遇にみえるのですが、前述したように「婿取り婚」であるため、舅が婿を「ダメな人間」と判断した場合、離婚させられてしまうという制度だったのです。

 

 

 よって、夫は義父におべっかを使いながら、妻の家に同居しなければならないわけで、実態はかなりきびしかったといわざるを得ないでしょう。

 一夫多妻制で婿取り婚の苦しみ、よくわかるのではないでしょうか。

 他人の家に入って住むのってつらいですよね。

 

 ↓以前書いた記事。こちらは日本の武士の生活について詳しい。

zunnda.hatenablog.com

 

 

 終わりに
 
 

 というわけで今日、紹介した本は『平安貴族 嫉妬と寵愛の作法』でした。

 この本は平安貴族の意外な一面、それも優美な面というよりも、穏やかではない部分を中心にイラスト付で解説している本です。

 

 受験生の方や平安貴族の疚しいところに興味のあるかたにとって、有意義な本であるといえましょう。

 

 ではまた、お会いしましょう。

 ズンダでした。
  
  

 ちなみに平安貴族の物騒な話を集めたのが下記の本です。

 

殴り合う貴族たち (文春学藝ライブラリー)

殴り合う貴族たち (文春学藝ライブラリー)

 

 


 

 ↓は古典の裏話を漫画にした本。読みやすい。

古典の裏

古典の裏

  • 作者:瞳, 松村
  • 発売日: 2019/10/07
  • メディア: 単行本