2012-01-10 01:38:16
モームの長編小説のタイトルである。
が、これ、ほんとうは『人間の束縛』というのが正しいらしい。
どうして、絆と訳されたのか分からないが、束縛というのは皮肉屋モームがつけた名前としては相当していて、相応しく感じる。
モームの言葉は確かに良くて、アランからいわせたらエセモラリストとでも
いわれていたかもしれないが、モーム著『サミング・アップ』(=これを要するに)は昔、夢中で読んだ。随筆である。
行方先生が岩波現代文庫で『モーム言行録』でまとめておられたが、
モームの言の葉は胸に響いた。
ただ、この態度で生きるのは今の自分にとってはつらすぎる。
このシニズムは十代後半から二十代はじめの青年期にならば、あるいは世捨て人のような生き方が可能な人、それこそ作家や役者であるなら許される態度であって、真向に社会を見据えると、これではやっていけなくなる。
アランが似非モラリストといってしまうのは、ひとえに社会で生きていけるかどうかなのだ。その瞬間、社会で生きていないような言葉を残してしまう作家は似非モラリストといわれる。つまり、潜みから人々を観察できる人、傍観者のみがモームのようなことをいえるのであり、普通人には無理である。
『サミング・アップ』で未だに覚えているのは、モームが医学生時代に
病院へ行き、負傷兵や苦痛に顔をゆがめている人たちを見たときの話である。
彼はそこで往昔の賢者たちが発した知恵あることばを引いて、こういう。
「よく、賢者たちは次のように言う≪若いうちに苦労したまえ。それが将来の財産になる。苦労した人は人の苦しみがわかるようになるし、また、成功するための目を養うことができるからである≫。しかし、これははっきりいっておくが、間違いである。苦労すればするほど、人はねじ曲がっていく。自分の尺度がおかしくなり、何を受け入れるためにも、がつがつして見境がなく、卑しく、そして不寛容な人間になり、いつもイライラしていて余裕がない。人が言った言葉を信じずに疑うようになり、ちょっとしたことでも逆上する。苦労などはしないほうがいい。我々は、貴族や金持ちに見られる屈託のない純粋な笑顔や振る舞いを、苦労した人々の間にみえることはない。それが現実だ。」
私もそれまで賢者の言う言葉を信じていた。
しかし、よくよく考えてみれば、自分だって体の調子が悪かったとき、
どれだけ楽しく生きている人たちを妬んだことだろうか。
確かにねじ曲がっていることに気がつかされた瞬間であった。
また友達の機嫌が悪い時もこの通りであった。
すなわち、学生時代にバイトで忙しい友人がいたのだが、彼は頗る多くのバイトをやり、そして何時間も働いていた。
当然、私とやり取りする日は暇だったわけだが、前日に重労働をしているとなると、その次の日はだいたい機嫌がわるく、私が少し何かいったぐらいで
いきなりキレられ、しばらく音信不通になったことがあった。
半年後ぐらい、つまり、あの地震があった日に、彼は私に電話をかけてきた。
その電話に私は気がつかなったので、仲直りするまでにそこから三カ月ほどかかってしまった。
ずいぶんなことだと思うが、とはいっても、人間の環境というのはその人自身にしかわからないもので、その人の調子もその人にしかわからない。
誰だって蟲の居所がわるいことだってある。
一応、私が実践しているのは、今話している相手がもっとも具合が悪いのではないかと想像することである。
こうすれば、私は相手に下手なことをいわないようにできるし、また、相手が仮に怒ったとしても不都合なことが起こり機嫌が悪いのだろうと思えるからで、そう思えれば相手の憤怒もしょうがないと許せるからである。
ちなみに、友達と遊んでいるときに、急に喋らなくなったり、( `_ゝ´)ムッとした顔をしていることが私にはある。
これはなにかというと、腹が痛いときである。私も常に必死だったりする。
ゆるしてちょんまげ。
※この後に知ったことだが、絆には縛られるという意味があり
モームが意図したかった束縛を意味することができるようだ。
ということは人間の絆という邦題は正しかったわけである。
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