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【感想】男性学とは何か? 新書 田中俊之『男が働かない、いいじゃないか!』(講談社+a)を紹介する

 

 今回紹介する本は二〇一六年に出版された田中俊之『男が働かない、いいじゃないか!』です。

 

 

男が働かない、いいじゃないか! (講談社+α新書)

男が働かない、いいじゃないか! (講談社+α新書)

 

 

 先日、「負の性欲」についての文章を書いた際、男性学が必要になる、との旨を記しました。

 

 

zunnda.hatenablog.com

 

 そこで、今回から、私が所蔵している男性学関連の本をいくつか拾っていきたいな、と。
 考えてみれば、「男性学」なるものを知らない人が多いのではないか、と反省しました。

 

 この記事を読むと次のようなことがわかります。

 ☆男性学とは何か
 ☆この本で書かれていることー男性の相対化
 ☆男性学は悪用される可能性がある

 

 それでは見ていきましょう。

 

 

 

 著者の素性と男性学とは何か

 

 著者の経歴


 
 著者の田中俊之氏は武蔵大学社会学助教(二〇一六年時点)です。
 社会学男性学を研究分野としておられ、二〇一六年時、書店には数冊ほど彼の新刊が並んでいたはずです。

 

 日本の現状-男性学の始まりと、注目されつつある理由

 

 日本での始まりは一九八〇年代後半です。 九〇年代には男性学を研究する学者も参加し、メンズリブ運動(男性解放運動)が展開されています。
 
 二〇〇〇年代に入ると下火になりますが、長引く不況は日本人の価値観を根底から変えざるを得ない状況を引き起こしています。
 

 止まらない非正規の増加や大企業の倒産と企業のブラック化や低賃金などの問題があります。
 経済成長しない絶望の日本経済が齎した影響により、人々は「男が働き、女が家庭を守る」という考えでは立ちゆかない現実を踏まえるようになりました。
 
 それゆえ、ここ最近、俄に男性学が注目されるようになっています。
 生きるために別の思考を求める必要ができたのであります。
 
 

 男性学の中身と定義

 

 簡単にいうと次のような学問です。

 男性の社会的な役割を解体する。
 

 例えば、

 

常識「男は女を養わなければならない」
男性学「男が養うか否かはそれぞれの家庭がきめることであり、社会的な役割にすべきではない。」 

 

 男性に求められている役割に対し、疑問符を打ち、自分の人生に適した選択を選ぶように促す学問だといえます。

 

 何が書かれている本なのかー相対化作業

 

 男性に求められている代表的な役割

 

 それゆえ、『男が働かない、いいじゃないか!』は男性に求められる役割を取り上げ、それを田中氏が相対化していく作業をしていきます。
  
 第一章と小見出しをみてみましょう。

 

 

第一章 就職できなくたって、いいじゃないか

 男性にもいろいろな人がいる
 正社員として就職できないと人生終わりですか
 フリーターよりもブラック企業の正社員のほうがましですか
 働くなら中小企業より大企業ですよね
 無職って恥ずかしくないんですか
 ひとつの会社で働き続けるべきですか
 公務員は安定していますよね
 生き残る企業はどこですか
 男なら夢を追いかけるべきですか
 男の価値は年収で決まりますか

 

 
 と、こういうふうに「人々が男性に対して抱いている役割像」を挙げています。
 それに対して、田中氏が男性学の知見をもって応答するかたちとなっています。

 

 

zunnda.hatenablog.com

 

 男性学で相手に答える

 

 たとえば「正社員として就職できないと人生終わりですか」に対しては以下のように答えておられます。

 

 

・家庭や子供をもち、三五年ローンをして家を買うことが素晴らしいとはいえない。 
・男性だけがフルタイムで働くことを求められているのはおかしい

・人生全体を考えて、満足できる道を探そう

 

 

 

 こんなふうに答えておられます。
 やや、ボヤッとした答えだと思われるでしょう。

 実際、全体的にはこういう論調が続く本です。
 物足りなさを覚えるかもしれません。

 

 しかし、ここで田中氏が書いているのは男性の社会的な役割からの解放です。

 読んでいくと、あらゆる縛りが男性には課せられているという現実に気づかされます。
 

 上に列挙した小見出しを、もう一度みなおしてください。

 その中に、男性がしなければならないと、自分が思い込んでいた項目はいくつありましたか?

 

 その個数こそ、あなたが縛られている鎖の数です。

 

 それを田中氏は一つ一つ解きほぐしていく作業をみせることで、男性学の実態を明らかにしておられます。
 
 

 男性学は危険性を秘めているー精神論、自己責任論

 企業の論理と問題の放置

 

 ただし、この本を読んでいて、少しばかり危険性を感じました。

 それはこの本を読んだ企業家や自己啓発本を書くような人物達が次のような論を述べ始めるのではないかと思ったからです。

 

・「心頭滅却すれば火もまた涼し論」
男達が役割から解放されたいということから次のように考える。

もし、正社員でなくてもいいのなら、社員を一度首にして、非正規として契約を結んでやろうと考える論拠になる。
 

 ・男性が男性としての役割から解放されるのであれば、社会問題になりつつある未婚や女性から相手にされない男性などの問題が等閑視される可能性がある。

 以前の記事でも紹介した「大きくて黒い犬問題」が放置される。

 

 

zunnda.hatenablog.com

 

 

 やりがい搾取という論理を思い出そう

 

 つまり、この本の内容は一歩間違えると、日本社会を更に悪化させる「自己責任論」や「精神論」に利用されかねないということです。
 
 「やりがい搾取」という言葉をご存じでしょうか。

 企業がよく使う言葉です。
 

 「やりがいがある仕事や好きな仕事についている人間は、低賃金でもいいし、ブラック企業でもいいはずだ。なぜならば、君らは自分のしたいことをしているのだから。我々はそれを君らに与えてやっているのだ。だから、安月給で働くことに満足しろ。」
 
 こういう彼らの都合によい論理があります。
 これと同じように男性学は利用されてしまう可能性があるのです。
 
 
 

 田中氏は経済成長を否定してない。

 

 おそらく田中氏もその危険性に気づいておられるのだと思います。

 田中氏本人は「未来に希望はありますか」の項目中で次のように言っておられます。

 引用します。

 

 

 このまま中年フリーターの問題を放置すれば、年老いた彼らは食うや食わずの生活を送る下流老人になるでしょう。

 景気の見通しがどうであれ、問題の先送りによる負の連鎖を、今すぐに止めなければなりません。

 さもないと、事態はさらに悪化するだけです。将来につけを回せば回すほど、若者は将来に絶望するしかなくなります。

 勘違いしないで欲しいのですが、経済成長が不要だと言いたいのではありません。

 すべての世代に共通する貧困の問題に対して、経済政策を抜きに議論をするのであれば、どれだけ高い理想を掲げても机上の空論になってしまいます。 
 
 

 

 田中氏は男性の社会的役割からの解放という名目のせいで「経済政策を無視するようなことになってはならない」と主張しておられます。

 我々は、男性学を参考にしつつも、経済問題にも目を配る必要があります。 
 
 さもなければ、男性学は男性を苦しめる学問として使われるはめになるでしょう。

 

 ズンダが思う。男性学は普遍的なものなのかーやむを得ない慰撫としての男性学

 

 ただ少し思ったのは、もし日本の経済がよかったならば、男性学の必要性はあったのだろうか、ということです。

 もちろん、選択肢の多様性を与える意味では価値があります。

 

 八〇年代後半から起こったメンズリブ運動が廃れてしまったのには、どんな理由があるのか。

 経済が順調であり、男性が正社員や給料があがっていく環境下において、男性学は求められないのではないだろうか。

 そんな気がしました。

 

女性学・男性学 -- ジェンダー論入門 第3版 (有斐閣アルマ > Interest)

女性学・男性学 -- ジェンダー論入門 第3版 (有斐閣アルマ > Interest)

 
男性学入門

男性学入門

 

 伊藤公夫氏は昔から有名な方ですね。

 
 おわりにー育児のために 子供をもつ親御さん向けの男性学本を紹介しつつ

 

 今回は男性学の本を紹介してみました。

 これから、他の本も挟みつつ、男性学本を取り出して、感想文や書評文を書けたらいいな、とおもっております。

 

 もしよかったら、読者登録&ブックマークをおねがいたします。

 励みになりますので。

 

 では、また。ズンダでした。
 

 ↓ちなみにお子さん向けの本がこちらです。

 社会において「男として生まれた」ということは何を意味するのか。

 そして、どう考えて成長していった方がよいのかを書いた著作です。

男子が10代のうちに考えておきたいこと (岩波ジュニア新書)

男子が10代のうちに考えておきたいこと (岩波ジュニア新書)

 

  

 ↓こちらはレイチェル・ギーザ氏の本。

 そもそも「男性らしさ」をとりまく環境は子供時代から形成されていくことを考える必要がある、といった著作です。

ボーイズ 男の子はなぜ「男らしく」育つのか

ボーイズ 男の子はなぜ「男らしく」育つのか

 

  但し、脳みそによる男脳と女脳の話があり、「男性として育てられたから男になる」のかどうかはわからない。

 下のリンクによれば以下のことはいえる。

 

 ・男と女の脳は明らかに違う。スキャンすればわかる

 ・しかし、それが「男らしさ」や「女らしさ」に繋がるかが分からない

 ・もしかすると、繋がるかもしれないし、繋がらないかもしれない

 

 とのこと。

natgeo.nikkeibp.co.jp

wired.jp

 

 

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