医療の進歩について興味ありませんか?
私たちの苦痛や持病や難病、そういったものを解決できるとしたら、皆さんは人生に対して希望がもてるのではないでしょうか。
巻頭にある著者の文を引用します。
2020年現在、医療は「完成期」に入りつつある(中略)「完成期」とはすなわち、人間が病気では簡単に死ななくなる時代、ということです。(中略)人がすでに病気では簡単に死ななくなりつつあること、そして今後ますますそうなっていくのは裏打ちのある真実であることを深く納得していただけるはずです。
と、劈頭、びっくりするような文言がならんでいます。
そう。
私たち人間は長足の進歩によって、「病気で死ぬことがない時代」に突入しているのです。
最先端の医療についてみていくことにしましょう。
加えて、私たちが難病やワクチンをどういう視点でみればよいのかも記述していきます。
では、『未来の医療年表』(講談社現代新書)の始まりです。
2035年、ガンは人間に克服される
ガンは遺伝子の問題ー二つの薬
ガンは遺伝子の異常によって引き起こされる遺伝子疾患といわれています。
2000年代にはいってからガンを引き起こす遺伝子を正す「分子標的薬」ができました。
分子標的薬はガンを引き起こす特定の遺伝子のみを攻撃できます。
要するに今まではガン以外の健全な組織も攻撃してしまっていたため人々の身体に損害を与えていたわけですが、それが比較的抑えられるようになっているということです。
この薬の開発は乳ガン、胃ガン、血液などからはじまり、進歩してきました。
更に2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑らが開発した「免疫チェックポイント阻害剤」もガン治療には有効だといわれています。
ガン細胞は人間の免疫細胞にブレーキをかけるのですが、このチェックポイント阻害剤はブレーキを阻害し、人間の免疫力を復活させるという効力があるのです。
これにより2030年から2035年頃までにはこの二つを組み合わせたガン治療薬が誕生しているといわれています。
私たちはガンで死ぬことから解放されるということです。
「難病」って何?
難病の定義と歴史
難病とは良く聞く言葉です。
私も友人に難病の人がいるのですが、数が少ないのでそんなに耳にするようなことはありません。
実は難病は国による明確な定義があります。
旧厚生省は1972年に「難病対策綱領」を策定し、次のように定めました。
原因不明、治療方法未確立であり、かつ、後遺症を残すおそれが少なくない疾病
経過が慢性にわたり、単に経済的な問題のみならず介護等に著しく人手を要するために家族の負担が重く、また精神的にも負担の大きい疾病
と定義しています。
このとき難病に入ったのが「ベーチェット病、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、スモン」の四つで医療費助成の対象になりました。
2015年には、難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)が施行されました。
患者数が一定の基準(国の人口の0.1%程度)より少ない
客観的な診断基準がある
難病を「指定難病」にし、医療費助成の対象としました。
このときに全部で110疾患が指定難病になります。
2020年8月現在だと、333疾患にものぼります。
これだけの病気が「難病」扱いされ、治療できないままになっていることを思うと、生きることの大変さがわかりますね。
私たちはいつこういった病気に自分が罹ってしまうかわからないわけです。
病気は突然やってきて、その人から人生を奪い去ってしまいます。
しかし、「難病」には何の希望もないかといわれれば、それは違います。
難病指定は解決の余地がある
難病指定される病気は「客観的な診断基準」が求められます。
ここには遺伝子解析が進歩した結果、「あなたの病気は難病です」といえるようになったと考えられるのです。
もしこれが本当に病気であったか分からない場合、風邪と間違えられたり、単なる怠け者として扱われるだけだったりします。
医療分野において新生面がひらかれたおかげで、病気と認定できるようになったのです。
そして難病指定は「なんとかなるかも・・・」という病気が指定されるといわれています。
公衆衛生と予防接種
社会全体で人の健康を守る
公衆衛生という概念は1920年にアメリカの細菌学者チャールズ・エドワード・A・ウィンスローが定義した次の言葉からはじまります。
共同社会の組織的な努力を通じて、疾病を予防し、寿命を延長し、身体的、精神的健康と能率の増進をはかる科学や技術
上記の文にもあるように公衆衛生とは社会全体で健康を保つために協力しあおう、という考えなのです。
たとえば、一つの例がインフルエンザワクチンの予防接種です。
インフルエンザは若い人が感染しても死に至ることはあまりありません。
よって、若年層にはワクチンを受けたくないのであれば、それはそれで構わないわけです。
しかし、高齢者や糖尿病、心臓病などの基礎疾患をもっている人にとっては非常に危険です。
若人が媒介者になり、彼らに感染させてしまう危険がある。
それは社会全体に有害な影響を与えてしまうからこそ、ワクチン接種がよびかけられているのです。
こういった社会全体を踏まえて、医療体制を整えることが公衆衛生の考え方です。
ワクチン接種が義務でなくなった理由ーインフルエンザと子宮頸がんワクチン
ただし、ワクチン接種は公衆衛生のために必要だといわれても、インフルエンザワクチンは義務づけられてはいません。
1976~1987年まで年小中学生に向けてワクチン接種が義務化されていました。
高齢者も含めて年間約37000人から49000人ほどの命を救っていたと考えられているようです。
しかし、このインフルエンザワクチンの接種は今では義務ではなくなりました。
副作用の可能性があるからです。
私たちは病院へ行き、ワクチン接種を受けた後、「具合、悪くありませんか?」ときかれますね。
アレルギー反応でアナフィラキシー様症状(発疹、じんましん、赤み、かゆみ、呼吸困難など)が出るうえに、数万人に一人の確率で死亡例があるからなのです。
最大約五万人程の人間を救うことができるが、ワクチン接種によって誰かしらかは死ぬ可能性が出てくる。
そうなると、政府の方も義務づけできなくなってしまったわけです。
こういったことは十年ほど前にも話題になりました。
子宮頸がんワクチン問題
子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)をうたれた女性が全身の痛みやマヒなどのしびれを訴えるという事態が発生したのです。
私ズンダも当時ニュースでこの報せを見て、驚きました。
若い女子中学生が車椅子に乗り、自分で歩くことがままならない姿を見てかわいそうに感じました。
この報道は盛んに行われ2013年以降6月以降は「積極的な接種勧奨の差し控え」が続いています。
この子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)が原因で起こるガンです。
↓女性必読の書。子宮の病気は女性の人生に大きな影響を与える。
・日本では毎年一万人が罹患
英米オーストラリア、北欧ではワクチンのおかげで有意に低下している
・WHOは子宮頸がんワクチンの安全性の問題はみつかってないと発表している。
・2015年にはWHOのワクチン安全性諮問委員会が「若い女性をHPVによるがんの危険にさらしている」と批判しています。
リスクをどう考えれば良いのか
ここで考えなければならないのは結局、リスクなのでしょう。
たとえば100人のうち1人が死ぬ。
しかし99人は救われる
という問いがあったときに私たちはどうしたらよいのでしょうか。
もしHPVワクチンをあのままうっていたら、多くの女性は子宮頸がんにならなくてすんだかもしれません。
無論、麻痺などが起こる女性はでてきたでしょう。
少数のワクチンによる副作用が起こる人たちと、大多数のワクチンによって救われる人たちとがここで天秤にかけられているわけです。
↓反ワクチン運動といわれるものによって、どれだけ多くの生命が失われているのかを説いた本。一人を助けるか九九人を助けるか。
大変難しい問題です。
正直、大多数が救われるからと言って少数の人間を等閑にしていいわけがありません。
一方で、子宮頸がんワクチンをうてば助かった人々が多かったことを思うとそれも無視できないですね。
当たり前ですが、私たちは皆が老衰で死ぬわけではありません。
不慮の事故や思わぬ病気などで、本来の寿命を迎える前に死ぬ人たちなどがいるわけです。
その際、常に数字を考えねば成りません。
無論、私たちは常に数字を意識して物事を決定できるわけではないし、それが絶対に悪いといいきれないことは、以下の書物にも書かれているとおりです。
しかしながら、データや統計などを全く無視して、何かを判断することが正しいかといわれたらそれも違います。
FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣
- 作者:ハンス・ロスリング,オーラ・ロスリング,アンナ・ロスリング・ロンランド
- 発売日: 2019/01/01
- メディア: Kindle版
奥氏はヘルスリテラシーという概念を紹介しておられます。
引用します。
デンマークの公衆衛生学者クリスティン・ソーレンセン博士は2012年に著した論文で、ヘルスリテラシーに関して以前から存在した「17の定義と12の概念モデル」について検討し、ヘルスリテラシーとは「ヘルスケア、疾病予防、健康増進という三つの領域の健康情報にアクセスし、理解し、評価し、利用できる、知識、意欲、能力のこと」であると整理しました。
私たちは自分たちで情報を集めるだけの意欲をもって、なるべく理解し、自身の体を理性的に保っていかなければならないということです。
そしてこれは、医学の話だけではありません。
政治や経済など、私たちの生活に密接していることについても常に新しい情報や知見を求め、学んでいく必要があるでしょう。
終わりに
大変読みやすい本です。二時間ほどで読了できるでしょう。
奥氏は医療についての情報を東日本大震災の頃から積極的に発言しておられたためか本書は素人が読むのに相応しい水準の本になっております。
自分の病気に不安を覚えておられる方。あるいは将来「自分がこんな病気になったらどうすればよいのだろう」と考えておられる方は必読の本といえるでしょう。
本書が皆様方の不安を払拭する一書になることを願っております。
ただし、本書でもかかれている日本の借金が一千兆円であり、財政赤字によって良質な医療が提供できないという話に対しては賛同できない。
私ズンダが新書を読む度に頻繁に目にする言葉が「財政赤字のせいで日本は何かを削るしかない」という話だが、もういい加減、聞き飽きた。
特に福祉に関して「国による支援を!」と訴えていたり、あるいは「古い考えに拘泥することなく進取的に新しい考え方を摂取しよう!」と主張していたりする学者や知識人が「日本には借金があるから」と言い出す度に、吹いてしまう。
どの分野でも知識の更新があってもよいのではないか。
私ズンダが新書を勧めている理由は、
1 読みやすい
2 専門家による最新の学説を学べる
3 値段が安い
からである。
無論、全てが良書であるはずがない。
しかしそんなことをいっていては、いつまでも学習などできない。
私たちはその都度その都度、自分のできる限りの範囲で不完全なことを一生懸命まなぶしかない。
それがリテラシーではないか。
人間は専門のことも専門外のことも鑿窓啓牖していくべきであり、その方が人生の質が上がるのであれば、素直に考え方を改めて、多くの人々が幸せになれる道を唱導していくべきではないだろうか。
だからこそ『未来の医療年表』のような本は価値があるのだし、またこういった医療を多くの日本国民が受けられるようなリソース作りをするためにも「財政赤字」という虚妄はうち捨てられるべきであろう。
お金の問題ではないのである。
詳しくは以下に紹介したMMTの学者として知られるステファニー・ケルトンによる『財政赤字の神話』。
もしくは日本人による緊縮財政批判の本やMMT本を読んで頂きたい。
↓こちらは日本の未来について書いた本。医療と一組にして将来について考えたい人向け。