日常美学とは???
パッと説明できる本ではない
美学者である青田麻未氏による「日常美学」という聞き慣れない家を中心とした生活に焦点を当てた美学を展開する本。
教科書や入門書などではなく、佐々木健一『美学への招待』や以前、私が紹介した井奥陽子 『近代美学入門』などのように収まりの良い本ではない。
2000年代にはいってから盛んに議論されるようになった日常美学は、
2005年に初の論文集が刊行され、
2007年にはユリコ・サイトウやカチャ・マンドキという美学者によって『日常美学』という本が出た。
通常の美学の本にあるような理屈っぽい説明もあまりなく、まとまりがないため読書感想文を書くのも難行であるが、紹介していこう。
それにしても最近は分析哲学系もだが、こういった一般人の日常に沿った哲学などの本が多いように思われる。
それもそうで、よくよく考えてみると一般人からすれば大いなる理念を謳った本など、人生に全く関係がないのだ。
人生で必要な動作は小卒、中卒でも事足りるのであり、大仰な学問など余計な些事にしかすぎない。この日常の美学はとりわけ私にそれを思わせた。
こう考えると、高校、大学にいく必要性など本当にあるのか?といいたくなる。
日常美学の二つの立場
この「日常美学」には大きく分けて二つの立場がある。
ナウッカネリンがいう
①「日常のなかの平凡な側面に注意を向けるべき」と、
トーマスレディがいう
②「日常生活はそれ自体では平凡なものであるのにもかかわらず、
そこに非凡なものを見出す芸術家をモデルとして、日常美学を構築する」
という二つだ。
後者がこの本の立場である。
前出したサイトウは「世界制作」*1こそが日常に隠れた美的なものをみるために必要な考えだという。
夭死した役者であるジェームズ・ディーンがいうところの「発見」によって私たちは日常に「美」をみつけること、あるいは創作できるのではないかというわけだ。
vlogに日常美学を見出す
vlogによる日常の発見
これを説明するために本書では美学的な考えを示しながら、子育てをしながらvlogに熱中していた著者が展開される。
この本の美学的要素である「発見」とかかわる肝要な部分である。
知っての通りvlogは一般人の一日の生活をおったものにすぎない。
登録者が150万人を超えるvloger、Namiのくらし
そのなんてことない生活は映像編集の切り取りによって、日常であるにもかかわらず、私たちを魅了している。
みる人にとっては人の生活は非日常に感じられる。
もし、日常に何らかの美的なものがなければそれは単なる行住坐臥にしかすぎず、みていられないものになるだろう。
しかし、vlogは多くの人々に受け入れられ、何万、何十万と再生されている。
プオラッカによる日常生活5つの区分け
著者はフィンランドの美学者・プオラッカによる日常生活の
「ルーティーン」を引用する。
ルーティーンは決まり切った日常的な行動をさす。
朝起きて便所へ行く、洗面所へ行き顔をあらう、人によってはシャワーを浴びる。
朝食を食べ、朝のニュースをみる・・・・・・
プオラッカはこのルーティーンを5つに区分している。
①生命時のためのルーティーン
②社会生活を営むためのルーティーン
③最小の福利のためのルーティーン
④仕事に関わるルーティーン
⑤趣味に関わるルーティーン
この5つの区分は動画制作者と個人の視聴者との間で「ルーティーンの階層変化」を生ぜしめているというのだ。
「階層変化」とは①~⑤の区分が人によって階層を移動することを示している。
たとえば「生命維持のためのルーティーン」が人によっては
「趣味に関わるルーティーン」にみえる可能性がある。
食事は生命維持だが、料理好きにとっては
動画出演者がどのように料理をつくっているのか気になるだろう。
それは趣味的なルーティーンに変わる。
ジョン・デューイの改良主義と日常美学
またプオラッカはプラグマティスとのジョン・デューイの「美的経験におけるリズム」の考えを援用し、反復による生活リズムが人間にはあり彼の「改良主義」と結びつき、リズムによる単純な反復だけではなく、成長するためのエネルギーを蓄え、生活を改良していくことにつながるという。
わかりづらいが、日常のルーティーンの中に変化への胚胎があり、長期的な視野をもちながら、短期的な苦労(たとえば、子育てや仕事、環境の変化)などにおしつぶされることなく、リズムにのって生活の中に美的経験を育むようにしていこうという考えなのだろう。
このように生活に美学を孕む要素を「発見」することで、凡人でも世界を豊かなものにしていけるのではないかというのが本書の内容である。
私ズンダの思ったこと
個人的には著者が子育てをしている際に「自分の生活が遅れなくなったこと」を述べている箇所がこの「日常美学」の始まりだとすれば、非常に共感できる。
私は弱者男性ゆえに独身なのだが、配信やTwitter上のスペースなどで子育てをしている人々と会話をしたことが幾度となくある。その「苦労」は会話中になんども伝わる。夫婦間のやりとり、むずがる子供をあやす親など・・・・・・
そこには今までになかった赤ん坊という異質の存在が日常に加わることによる
やむを得ない変化があり、その違和感からvlogにはまり、「日常美学」への傾倒がすすんだとすれば非常に納得できるからである。
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*1:ネルソン・グッドマンの『世界制作の方法』に想を得たのかについては全くかかれてない。