ここ一年ほどで米中の関係性は突然、悪くなりましたね。
つい最近もトランプ政権が中国のHUAWEI製品を使わないことを宣言し、中国がスマートフォンをつくるための部品やOSの提供などの停止を発表し、とんでもない事態になっております。
またそれに中国、HUAWEIのほうも即座に対抗し
ファーウェイ、一夜にして独自OS:グーグルは米政府に包囲網解除を要求か | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
こんなことになっております。
さて、そんな最中、NHK出版のほうから発売されたのが今回ご紹介する本です。
『米中ハイテク覇権のゆくえ』と題された本には驚くべき中国の野望とそれを阻止するためのアメリカの対抗手段、そして貿易摩擦への道のりがかかれております。
その中身とは何なのか一緒に見ていきましょう。
以下、「ですます体」から「である体」での記述になります。
中国は何を狙っているのか。アメリカは何をされたのか。
中国製造2025という文書の衝撃。
中国はハイテク機械を作る部品を自国では十%しかつくれておらず、八割を日本やアメリカから輸入しているが、その率を2025年までに七割にするという。
つまり、アメリカや日本に頼っていた割合を減らすことで、他国との関係お構いなしに自国内で物をつくり、物を売る経済を目標とした内容であった。
中国の人口は14億人。更に東南アジアやアフリカを経済的支配権にもちつつある中国にとってアメリカに頼らずに伸張していくことは重要なことであった。
中国の富国強兵策がこの「中国製造2025」にかかれていたものである。。
と、同時にアメリカは、中国が世界の工場から脱皮し、世界を握るヘゲモニー国家になるかもしれない、と考えるようになる。
更にAI時代が中国を優勢にさせる。
AIは大量のデータを基に学習し、パターンを得ていく。
AIにとって重大な情報量の多さ、それを収集するにうってつけなのが中国という国家であった。
理由は
- 人口14億人のデータがある。
- 人権軽視が甚だしいので、現実世界でもネット世界でも情報は中国共産党に簡単に集まる。個人のクレジットカードやスマートフォンのやりとりもすべて政府に筒抜け。その情報が管理を楽にさせ、またAI学習に利用される。ディストピアの世界を現実にした国。
また、アメリカの企業も日本企業と同じく中国に対しての警戒が薄いために間接的に協力してしまっている。
例えば、グーグル。
グーグルなどはトランプにTwitterで批判されていた。
グーグルはメイブン計画。つまり、軍事利用するための民間技術と国家の安全保障とをつなげるための計画から2018年に離脱した。しかし、呑気なことに中国にAI開発拠点をおいていたためにトランプの譴責を受けることになった。
日本も中国のAIに浸食されつつある。
すでに滴々(ディディ)という中国版ユーバーとでもいうべきMaaS(Mobility as a service)関連の会社が、大阪のタクシー会社12社、約1000台に自分たちのアプリを導入させている。日本はタクシー市場が世界に第二位であり、このアプリが載せられるまで六割近くのタクシーは暇をもてましていたが、導入後、休む暇もないほどに次の客を見つけることができるようになっている。客捜しが楽になり、稼ぐことも容易に行えるようになってしまったタクシー業界がこの技術を捨て置くわけがない。たちまち、日本全国に広がり、中国の技術から離れられなくなるだろう。
大阪のタクシー運転手はNHKの取材班にこういった。
「やっぱり、凄いですね。中国のAIは」
ここで日本のAIの話が一つもないことは悲しい。
アメリカが中国を警戒するようになった理由
アメリカ政府に中国の危険性を説いた警醒の文書は国防総省の幹部ブラウンによる『中国の技術移転戦略』であった。
彼は以前はシマンテックで働いていた。彼が率いるDIU(国と民間とが協力し合い国家防衛のための技術を開発する部署)はその専門性ゆえに中国の危険性にいち早く気づいた。
この報告書のなかで「中国の10の手口」とよばれるものがある。
「サイバー攻撃」
「産業スパイ」
「強制的な合弁企業の設立」
「アメリカ企業の買収」
「アメリカのスタートアップ企業への投資」
「アメリカの大学・研究機関で学ぶ中国人留学生」
「オープンソース情報の活用」
中国はサイバー攻撃などの非合法的な手段でアメリカの技術を盗んできたことは有名だったが、最近では次のような合法的なやり方で盗むようになった。
たとえば、中国政府はアメリカのベンチャー企業に呼びかけ、融資を気軽にし、事務所を無料で貸したり、税を免除したりすることで、アメリカの優秀な学生達を合法的に中国に誘い込む。当然、アメリカの出群な人々は自信の成功を掴むためにそれが中国を利する行為になろうが、乗っかり、己の野心を満足させるために渡中する。
こうして合法的な頭脳の流出が起こるわけである。
DIUは嘗て揶揄された軍産複合体の焼き直しである。冷戦時に盛んであったが中国とアメリカとの間で新冷戦(国際政治学者イアン・ブレマーが提唱)が始まったことにより活動が盛んになっている。
彼らの国家防衛のための目標は以下の通り。
これらを一気に最新鋭のハイテク技術まで育て上げることが今のアメリカの眼目であり、また中国がすでに行っていることである。
もし中国がアメリカを上回れば次の時代の覇権国は中国になってしまう。
ここに冷戦時代の再現、産業複合体🆚産業複合体の戦いが火蓋が切られたのである。
なぜHUAWEI社長の娘はカナダで逮捕されたのか。
逮捕容疑はイランの通信業者と違法な取引をおこなったためというものであったが、実際はHUAWEIへの宣戦布告である。
HUAWEIは5Gという今までの4Gと違って膨大な情報量を各地に敏捷っこく送ることができる次世代の通信方式なのである。
この5Gを展開するための基地局とよばれる施設を中国は世界各国につくり、覇権を握ろうとしていた。
勿論これが実行されていけば国家の安全保障にかかわる問題になる。というのも5Gの基地局を積極的に設置しているのはHUAWEIであり、インターネット上での情報が中国共産党によって監視される可能性があるから、アメリカとしては一大事と考えたのである。
2017年に中国で制定された「国家情報法」がある。
これは「いかなる組織、国民も法に基づき国の情報活動を支持、援助、協力しなければならない」と規定されている。
つまり、HUAWEIを使えばその情報は必ず中国政府のもとにいくということが予想できる。
HUAWEIのCEOは言下にそれを否定しているが、彼は共産党員であり、ビジネスと政治とを分けることが出来るようにはとても思えない。
彼を信頼しても我々は中国政府を信頼できるだろうか?
しかしながら、HUAWEIのアジアやヨーロッパでの人気が高い。
理由は技術力が他のメーカーより高い上にコストが安いからである。
もはや世界は中国ぬきではまわらないようになってしまっており、アメリカがいくら対抗しても他の国々がそれについてくるかどうかわからない。
読後の感想 この本の内容を踏まえて
アメリカの中国潰しがどこまで有効なのかはわからない。
政治学者イアン・ブレマーによればアメリカの強みは国家として成熟しており、トランプ率いる共和党に限らず中国を警戒している。仮にトランプが大統領をやめるはめになったとしても中国への圧力はかわらない。
逆に中国の体制は脆い。もし習近平に何かあった場合、国策が一気に変更になる可能性がある。共産党独裁体制のなかで何処までアメリカと長期にわたって貿易戦争を繰り広げることができるのか不安定要素がある。
かといって、アメリカが絶対的に有利であるかといえばそうではない。「中国製造2025」文書にあるようにこのまま中国の富国強兵策を誰も止めることができず、進捗していった場合、アメリカですらも手をつけられないような強国になる。
そのとき世界は、日本はどうなるのだろう。
最悪な顛末は、中国に手を焼いたアメリカが世界を中国とアメリカとで二分するという考え方である。そこにおいて均衡が生まれる。
アメリカと中国との貿易戦争の着地点の一つである。
もちろん、アメリカのアジアへの権力は弱体化し、日本も中国の勢力に呑み込まれる可能性が高い。
日本が危ない
巷間いわれているように、日本は二十年間以上、経済成長をしておらず、GDPも殆ど増えていない。それは防衛費も増えないことを意味する。(防衛費はGDPの一%ほどに押さえるという常習がある。つまり、GDPが成長していれば自然に防衛費も増えることになる。)
また、消費税八%にあげたことにより個人消費は下がり続け、リーマンショックや東日本大震災を越えるほどの激甚な被害をもたらしている。
つまり、消費税の影響は天変地異や世界屈指の恐慌よりも大きかったということになる。
加えて、中国がAIや5Gなどに国家の総力をあげて投資してきたのにもかかわらず、日本はそれをほぼやってこなかった。
急務のAI人材教育、国が認定 教育再生会議が提言 :日本経済新聞
それどころか政府が支出を抑え、一時期話題になったIPS細胞の研究者達ですら九割が非正規雇用という情けない有様である。
中国を甘く見ていた中国崩壊論という詭言の論
十年前程前、盛んにいわれていた「中国崩壊論」というものがあった。中国はデータを捏造しており、実際はそんなにたいした技術も経済成長もしていない。
張り子の虎である、といった話を保守系言論人が勇ましくいっており、何度も私の耳朶に触れたことがある。
しかし、実際はどうなったか。火を見るより明らかである。仮に中国が張り子の虎であるならばアメリカは何の心配もなく中国と仲良くしていられただろう。
が、現実は違う。もはや中国は日本を抜いてGDP世界二位の国家であり、経済成長率が衰えても未だに約6パーセント以上は伸びている国なのだ。
それに比べて日本はどうだろうか。経済成長は一倍、つまりゼロ成長である。
更に十%への増税を控えており、日本国民への経済制裁は続くばかりである。
正直言えば、日本人は中国をハリボテという以前に自分たちの国を心配すべきであろう。乱離骨灰しかねないのは日本である。
何故中国は成長しているのか。
近年、インターネット上でよくみかけるようになった世界各国の経済成長率と政府の支出との相関関係を示した図がある。島倉原によるものだが、グーグルで検索し画像で表示していただきたい。名目政府支出と名目GDPとの間には相関関係があり、中国の経済成長は適切な政府支出が行われているからなのである。
これについては以下の記事でバロンズもかいていることなので参照されたい。
上の記事でもあるように所謂、緊縮財政がもたらした悲劇は日本に限らずヨーロッパでも甚大な被害を与えてしまっていることに注意がいる。結局、中国を強くさせてしまったのはこういった政治の失敗でもある。
日本がもしまともな成長を遂げていれば中国にここまで投資が集まることもなかったのではないか。あるいは防衛力を高めることもでき、アメリカと協力して何かできたかもしれない。
今の日本の立場では、アメリカだけでなく中国にまで尻尾を振らざるを得ない状態である。
早急に何らかの対策をしていかなければならない秋が来ている。
さて、今回の本の紹介はいかがでしたでしょうか。
なるべく要点だけまとめて、具体例は少なめにしてみました。
本書を購入し、細かいところはご確認ください。
また、この記事を書いている途中でデンマークで左派陣営がぐんと勢力を増して勝利した。この記事にもあるように緊縮財政への反抗というのがヨーロッパでは盛んになってきている。
デンマーク総選挙、中道左派陣営が勝利 政権交代へ - ロイター
この緊縮財政についての問題は以下の書籍を参照のこと。
- 作者: 松尾匡,池田香代子,井上智洋,梶谷懐,岸政彦,西郷南海子,朴勝俊,宮崎哲弥,森永卓郎,ヤニス・バルファキス,プログレッシブ・インターナショナル
- 出版社/メーカー: 亜紀書房
- 発売日: 2019/05/23
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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また日本でも反緊縮を訴え、MMT(現代貨幣理論)を公論な俎上にのせようと
いう活動が盛んになってきているようで、来月七月にステファニー・ケルトンが京都大学主催で来日することになっているが、どうやら資金難のために会場費やホテル代や同時通訳とその機材費などを工面することが困難になっているようであり、カンパを募っている。
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