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自己啓発本はいつから生まれたのか、その理由は何かを教えます。

 

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『「自己啓発病」社会』


 本日紹介する本は、宮崎学『「自己啓発病」社会』です。

 この本がかかれたのは震災後の二〇一二年のこと、まだ記憶に新しいといえた東日本大震災があった一年後ですね。

 では、見ていきましょう。

 

 

 

 ☆この記事を読むと以下のことがわかります。

 ・自己啓発本と政治家、評論家の関係
 

 

 

 政治と自己啓発

 

 自己啓発に乗せられてしまう日本人
 



 

 80年代に「自己開発」ブームが起こる

 

 1980年に「自己開発セミナー」というアメリカからもたらされた訓練法が流行ります。
 
 これはもともと、1960年代、ベトナム戦争の泥沼化により自信喪失になったアメリカ人達を元気づけるために興ったものです。

 「自分はどんなことでもできる!」と洗脳し

 万能感を与える訓練法で、アメリカは社会問題になりました。

 

 イケイケドンドンな風潮があった1980年代の日本に於いて、「自己開発」は魅力的でしたし、自身の能力を引き上げることで会社側から優遇される時代でもあったのでしょう。

 

 2000年代の自己啓発本ブームとは

 

 宮崎氏はそのときどきのベストセラーを確認することで、どういった思想が流行っていたのかを見ることができるといっておられます。

 自己啓発の流行に関しては以下の通りです。

 

 1996年 『脳内革命』
 1998年 『大河の一滴』 

     『他力』
 2001年 『チーズはどこへ消えた?
 2009年 『脳にいいことだけをやりなさい』

     『心を整える』

     『本当に頭がよくなる1分間勉強法』

     『起きていることはすべて正しい』

 

 というように数多くの自己啓発本が出され、売れていますね。

 これらの本に共通するものがあります。

 

 スキルアップという魔法の言葉

 

 2002年、株式会社通信教育連盟が「ユーキャン」に改名して以降、様々な資格取得のための通信講座がひらかれていきます。
 
 それに呼応するかのようにスキルアップがキャリアアップにつながる」と喧伝されるようになり、資格取得のために「自己のスキルアップ」がこれからの日本には欠かすことができない要素と認識されるようになります。

 

 「英語」、「会計」、「IT」は「三種の神器」と呼ばれていました。

 

 スキルとはうまれもった「才能」とは区別され、後天的に獲得できる技能を指します。

 

 ここからスキルアップすれば、昇進できたり、条件のいい他者に転職できるキャリアアップも可能になる」と目標や期待などが雑誌やマスコミ、自己啓発本などで盛んにいわれるようになります。

 

 2001年以降の自己啓発は80年代とは違う

 

 バブルが崩壊し、消費税が上がり、経済成長しなくなった97年以降の日本人にとって自己啓発」は80年代の「自己開発」とは完全に異なるものになっていました。

 

 宮崎氏は次のように述べます。

 

 1980年代の「自己開発」ブームは、社会の自身にあふれた全能感にあおられたものだった。2000年代の「自己開発」ブームは、社会の不安な無力感から流れるためにすがったものだったのではないか

 
 不景気のせいで、就職氷河期に代表されるように、日本では就職することが難しくなりました。

 また、国が派遣法を改正していくことで、非正規社員非正規公務員が増大しました。 

 

 

www.nhk.or.jp

 

 ↓職員の数が減らされている。
 

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日本の地方公共団体総職員数(人)

 このような状態に於いて、一般人は「自分の能力をあげないと、まともに生きていくことができない」という考え方に支配されてしまいます。

 

 それが2000年代の「自己啓発」の意味です。
 
 つまり、経済の悪化によって「自己啓発」にのめり込まざるを得なくなってしまったのです。

 

 本来であれば、政府による経済政策の失敗が糺されるべきなのですが、

 

 日本人は

 

「自分が悪い。政府は悪くない」

 

 という見当違いの考え方をしてしまったのです。

 

 「自分が悪いから、自己啓発本を読んで、己を鍛えよう」

 

 という世界観が蔓延していきます。

 

 しかし、これは自然に起こった現象ではありません。

 

 「スキルがない人間が悪いんだ!」という、すべての責任を個人に押しつけようとする「自己責任社会」を形成していこうと目論む政治家や知識人達がいました。

 
 

 小泉政権によって新自由主義政策がとられる

 ネットで叩かれている二人ー小泉純一郎竹中平蔵

 

 今でこそネット上において、悪名高い小泉純一郎竹中平蔵ですが、当時の人気は凄まじいものがありました。
 
 小泉純一郎についてのまとめ

 

 ・2001年4月小泉首相が誕生
 ・支持率は讀賣新聞で87.1%
 ・「構造改革なくして景気回復無し」
 ・「聖域なき構造改革
 ・「痛みをともなう改革」
 ・「官から民へ」→「道路公団、石油公団、住宅金融公庫、郵政事

   業などの民営化」
 ・「中央から地方へ」

 

 

  つまり、小泉政権が行った改革とは

 

「政府が責任をとることがないように、あらゆるものを民営化し、すべてを個人の責任にする」

 

というものでした。
 
 こういった思想、政策を新自由主義といいます。

 

 簡潔に述べれば次のような考えのことです。
 
 「政府の責任をなるべく少なくして、個人の責任を重くする。」

 

 政府にとって、新自由主義は素晴らしいものであることがわかるでしょう。

 

 なぜならば、仮に政府が何らかの失政をしたとしても

「政府が悪いのではない。個人が悪いのだ」と責任転嫁ができるからです。

 

 すると、本来であるならば政権与党が攻められるはずのことが

「日本国民の一人一人が悪い」と言えてしまいます。

 

 責任をとりたくない政府の隠れ蓑として「新自由主義」はとられてきたのです。

 

 今の安倍政権も「新自由主義」なのですが、コロナウイルスに対しての態度をみればおわかりになるでしょう。

 

 構造改革による弊害ー東日本大震災

 

 「民営化すれば、経済はよくなる」とは耳に胼胝ができるくらい聞いてきました。

 

 しかし、この間違いは「東日本大震災」のときに決定的になります。

 

 小泉政権は土木建設業者に対して「談合の禁止」一般競争入札を徹底します。


 すると、価格競争がはじまり、地方の中小土建企業は仕事を確保するために、ダンピングに走ります。


 こうすることで安い落札価格で仕事を得るのですが、採算がとれなくなったために「落札倒産」や「受注倒産」する企業が相次ぎました。

 

 更に、政府は公共事業費も減らしたので、土木建設業者は仕事がなくなっていき、次から次へと潰れていきました。

 

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本書 P31 東北6県全体の事業費の推移

 

 

「公共事業をやっても、儲からない。」

 

「需要に供給が追いつかない」

 

 

 という人がいるのですが、需要がないと供給してくれる企業が倒産していくだけなので、将来的には誰も土木建設をやらなくなってしまいます。

 

 このあとの図でみてもわかるように、政府が需要を減らしたせいで、供給源が死んでいったわけです。

 

 これ以上に需要を減らせばどうなるのか。

 誰でも見通せるのではないでしょうか。

 


 天変地異が起こった際に誰が日本人を助けることができるのか

 

 さて、ここまで説明すればもうおわかりでしょう。
 
 倒産のせいで土木建設作業を行える人が減っていきます。

 

 すると、東日本大震災でがれきの撤去や道路や鉄道や港湾の復旧、住宅、公共施設などを修復しようと思っても、直せなくなってしまったのです。

 

 要するに「需要はあるが、供給ができない」という状態です。

 

 昔、「たまごっち」という玩具がありました。
 売れに売れていましたが、供給量が需要に追いつかず、買えない人が沢山いました。 
 玩具ならば、まだいいでしょう。
 
 しかし、震災は生きるか死ぬかという命運がかかっています。

 

 日本は

「土木建設業者を蔑ろにしたせいで、復興が満足にできない」という状態になってしまったのです。

 

 これが小泉政権が招いた構造改革による人災です。


 ちなみに、公共事業費は安倍政権になってからも減らされております。

 

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日本の公共事業関係費の推移(兆円)



 

 安倍政権のことを社会主義とよんだり、「借金を増やしている」と馬鹿な批判をしている人がいますが、データが読めない人なので、無視してください。

 安倍政権はむしろ「金融資本主義の権化」です。

 

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資本金10億円以上の法人企業の配当金(兆円)の推移

 ↑実質賃金が減り続けて、配当金の額が異常に増えている。株主重視の経済政策をずっと行っており、社会主義では全くないことが明瞭。

 

 さて、

 こうした新自由主義」に呼応する形で自己啓発本の影響も大きくなったということです。

 

 つまり、自己啓発本」とは「新自由主義とセットで考えるべき流行なのです。
 

 サミュエル・スマイルズ『自助論』の悪影響ー小泉と竹中の発言ー
 



 

 ところで、小泉純一郎竹中平蔵が愛読し、褒め称えている本についてご存じでしょうか。

 昔から有名な本があります。

 

 サミュエル・スマイルズ『自助論』です。 

 

    原題は『Self-Help by Samuel Smiles』です。

 

 

 小泉首相は2003年1月の第156回施政方針演説で次のように述べています。

 

 英国の作家スマイルズの著書『自序論』は、明治の多くの青年たちの心をとらえたといわれます。みずから志を立て、懸命に学問を修め、勤勉努力した若者たちが主役となって近代国家日本の基礎が築かれました。新しい時代を切り拓くのは、いつの時代でも、自助自立の精神の下、他者への思いやりと高い志を持つ青年達です。人こそ改革の原動力です。

 

 

 また、竹中平蔵氏も事あるごとに『自助論』を推奨しています。


 彼は1990年頃に小島直記に勧められて「胸を高ぶらせた」らしく、2010年3月2日におこなった演説「世界的変化を直視することが日本再生の第一歩」という講演において次のように述べています。

 

 必要なのは、民営化と規制緩和です。……法人税減税規制緩和を伴わない経済成長はありません。日本は今、その現実から背を向けてしまっています。すると、直感的に考えて、この国の未来は暗い。活性化は難しくないんです。どの国も一生懸命やっている。他の国がやっていて、日本がやっていないことをやればいいんです。法人税引き下げ、規制緩和を徹底的にやればいい。ところが、国が丸抱えにして、例えば企業再生支援機構がダメになった企業を助けたり、郵政を国有に戻したりしてしまっている(中略)最近、私は学生にサミュエル・スマイルズの『自助論』を薦めることにしています。これは小泉さんも好きな本です。 自助自立を忘れたら、社会は成り立ちません。社会が成り立つ原則が自助です。

※太字化はズンダによるもの。

 

 と長々と本書に書かれている竹中氏の講演を引用しました。

 典型的な新自由主義者の言葉ですね。
 

 そして彼の言うとおり、日本は改造されてきましたが、景気が良くなるどころか、悪くなったのが現実です。


 
 この「新自由主義」と「日本経済がなぜ回復しないで悪いままなのか」に関しては本ブログでも何回も薦めております中野剛志の『奇跡の経済教室』がもっとも簡潔にして要を得た本なので、やはり読者の皆様方には絶対に読んでいただきたいですね。

 

 

zunnda.hatenablog.com

 

 

↓中野氏の新刊です。コロナ以降、ヨーロッパやアメリカは反緊縮主義、積極財政へと転じました。その流れと思想潮流を説明した本です。人物の概略が写真付きで脚注にのっており、たいへん読みやすい本で、おすすめです。

 ちなみにこの他にもスマイルズを礼賛している人には勝間和代などがいます。

 

 みんなが読んでいるスマイルズは抄訳版である。完全版とは異なる。



 スマイルズの本が与えた影響というのは凄まじいものがありますね。

 みな彼の本を読んで、クラッときてしまい、自助自立」こそ国家の要!とおもいこんでしまうようです。

 しかし、実はこの『自助論』には二つの翻訳があることをご存じでしょうか。

 そして、小泉、竹中や皆さんが手に取っているのは抄訳版の『自助論』なのです。

 

 完訳版は講談社学術文庫で百年前に文語文で中村正直が訳したものがあります。

 このときの題名は『西国立志編』という邦題になっています。

 

 実はスマイルズの述べている「自助」の概念は、我々が思っている「自助」とはやや趣がことなることに注意がいる宮崎学氏は述べておられます。

 

 では、この二つの翻訳、何がちがうのか!

 

 それは明日の記事でみることにしましょう。

 

zunnda.hatenablog.com

 

 

 ではまた、ズンダでした。

 

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↓ちなみに、他の自己啓発に関する記事は以下です。
 

 

zunnda.hatenablog.com

 

 
 

 

 

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