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保育園や幼稚園に通っていない子供たち、〈無園児〉の存在を知っていますか?

 
 

 皆さんは保育園や幼稚園に通えない子供達がいることをご存じですか?
 
 国の二〇一八年度の推計によると9.5万人ほどいるそうです。

 幼児期の教育は人にとって大きな資産になるといわれいますが、その大事なときに教育格差がついてしまうのは子供がかわいそうですよね。

 

 今回紹介する本は可知悠子『保育園に通えない子どもたち』(ちくま新書)です。

 

 

 では、見ていきましょう。

 この記事を読むと次のことが分かります。

☆保育園にも幼稚園にも通っていない無園児の存在

☆貧困な家庭で育つことは子供の人生に悪影響を与える

 

 

 保育園や幼稚園に通えない人々の実態

 無園児の数

「無園児(推計未就園児)」の割合は、三歳児で5.2%(5.1万人)
四歳児で2.7%(2.7万人)
五歳児で1.7%(1.7万人)

 

 

 これらを足した数が9.5万人というわけです。
 ※該当年齢で推計される人口から、無園児に関する調査は行われていないので、幼稚園、保育園、認定こども園に在籍して生きる子供の数を差し引いて計算されたものである。

 

 どんな家庭が子供を幼稚園や保育園にいかせないのか?

 

 では、どういった家庭で無園児が多いのでしょうか。引用します。

 

 

(A)最も高所得の世帯(平均年1007万円)と比較した場合、最も低所得の世帯(平均年二四一万円)では、無園児になる可能性が一・五四倍高い。
 
(B)きょうだいがいない一人っ子と比べて、本人以外に三人以上いる場合では、無園児になる可能性が一・九二倍高い。

(C)親が日本国籍と比べて、両親のどちらかが外国籍の場合では、無園児になる可能性が一・四八倍高い。

 

 

 

 低所得者、子供の数が多い、親が外国籍という三つが子供を無園児にしがちな家庭の特徴だということですね。

 

 どのような健康・発達状態の子供が無園児になるのか?

 引用します。

 

D)二〇〇一年生まれの四歳では、出生週数が三七週以降の正期産と比較して、三七週未満の早産では、無園児になる可能性が一・九七倍高い。

(E)二〇〇一年と二〇一〇年生まれの三歳では、先天性疾患がない場合と比べ、ある場合では無園児になる可能性がそれぞれ一・五五倍、一・四〇倍高い。

(F)二〇一〇年産まれの三歳では、二歳六ヶ月時点で発達の遅れがない場合と比べ、ある場合では無園児になる可能性が十・三七倍高い。

 

 

 要するに子供に何らかの障碍があると、保育園に受け入れてもらえなかったり、親の心労などが積もって、子供を教育する気がなくなったりしているわけです。

 

 子供を保育園などに通わせない理由はなんなのか

 

 

 氏による調査をみてみましょう。
 

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本書より

 これをみると、そもそも保育園や幼稚園に通わせる「必要がない」が主な理由を占めていることがわかりますね。

 この調査では理由については大まかに調べることしかできなかったと可知氏はいっておられます。

 

 しかし、氏は自治体や支援団体、当事者へのインタビューなどから得た情報を基に考察しておられます。

 ここでは彼女が挙げた理由をまとめてみましょう。

 

 ①母親が就労しておらず、近くに公立幼稚園がない。
 ②保育料以外の費用が負担になっている。 

 ③親がメンタルヘルスの問題を抱え、入園手続きや通園ができないケースも考えられる。
 ④子供の多い世帯は兄弟が下の子をみるので、両親が就園の必要性を感じない。
 ⑤早産や先天性疾患をもった子供は看護師がいる保育園や障碍児向け保育園が近くにないと就園できない。ASDADHDやLD(学習障碍)など。
 ⑥親が外国籍だと言葉の壁があるので入園手続きができない。親の雇用が不安定なので入園で不利になる。

 

 

 これらの理由が複合的に重なることで、彼らは子供を入園させることができなくなってしまっているのです。
 
 詰まるところ、社会的弱者に多いといえそうですね。

 

 海外ではどうなのか

 

 海外は保育園と幼稚園とを区別していません。保育機能と教育機能をあわせもっているからです。

 図をみるとわかるように四、五歳では殆どの国も在籍率が九割をこえています。

 

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本書より

 無論、無園児もいるわけですが、その理由は日本とほぼ同じです。

 世帯所得が低い、親の教育水準が低い、両親または片親が働いていない、移民である、といった理由です。

 

 なぜ貧困であることはダメなのか?

 貧困だと人生で苦闘せざるを得なくなる

 

 ところで、このブログを読んでおられる方の中には「貧困でもいいじゃないか!倹ましくいきていこう!」というかたもいらっしゃるでしょう。

 確かにそれは自由ですし、そもそも貧乏から這い上がることは非常に難しいので仕方がないと諦めるのも理解できます。

 

 ただ、やはり人生において貧乏であるよりは裕福であるほうが何かと都合が効くようになるのはいうでもありませんね。

 

 この本では子育てがそれに該当します。

 

 お金のない家にうまれてしまうと子供はどうなるのかー家族ストレスモデルと家族投資モデル
 

 本文からまとめてみましょう。

 

四年制大学への進学率が低い
・最終学歴が低いと正社員として雇われにくくなる。
・自分の子供も貧しい人生を送る傾向がある。

 

 

 という事実があるのです。

 更に、経済学、社会学発達心理学の研究によれば、貧困が子供の発達をどう阻碍するのかモデルがあります。

 「家族ストレスモデル」と「家族投資モデル」の二つです。
 引用します。

 

 

「家族ストレスモデル」は、“経済状況が悪い→家族の経済的困窮→親の情緒・公道上の問題の増加→親の不適切な養育→子どもの発達へのネガティヴな影響"という、親の情緒・公道上の問題を経由したプロセスを想定しています

 

「家族投資モデル」は“経済状況が悪い→親の教育投資の低下や居住環境の劣化→子どもの発達へのネガティブな影響"といった、主に親の教育投資を経由したプロセスを想定しています。

 

 

 

 これは日本でも、菅原ますみ「子ども期のQOLと貧困・格差問題に関する発達研究の動向」において、実証済みだそうです。

 
 このモデルは非常に納得しやすいですよね。
 貧乏だと精神的に病みやすくなるし、子供に投資するお金もないので子育てへの不安や焦燥が募るばかりになってしまい、それが育児放棄や虐待などに繋がったりする。
 庶民感覚として受け入れやすいモデルです。

 

 経済状況が悪化しつづけてる日本国に於いては、親と子供を救うべく何らかの対策をしなければならないということがわかりますよね。

 この本によれば就学前の子供がいる家庭の経済状況は次のようになっているそうです。

 

 

 一九九七年と二〇一二年での比較

 

 父親の年収四〇〇万を切る家庭の割合
 二七%→三七%へ増加
 
 母親の就業率は三二%から四七%に増加しているが、三分の二を父親の年収が四〇〇万を切る家庭が占めていた。

 

 

 では、貧乏な家庭は子供を作るべきではないのでしょうか。
 すでにうまれてしまった子供達は不幸な人生を送るしかないのでしょうか。

 

 保育園が貧困家庭を救う!

 
 可知氏は山口慎太郎『「家族の幸せ」の経済学』を引用し、「家族ストレスモデル」は幼児教育によって改善することができると述べておられます。
 引用します。

 

 社会的に不利な家庭では、保育園に通うことで、母親の子育てストレスやしつけの仕方が大きく改善し、子どもの多動性・攻撃性も大きく現象するという知見が得られたためです。

 

 

 つまり、幼児教育を政府が拡充していく方向に舵を切れば、多くの貧困家庭が抱えるお金の悩みや育児のストレスから両親や子供を救うことができるわけです。

 

 可知氏はセーフティネットとして親や子供の両方を助けることができる幼児教育施設の価値を唱えています。

 保育園に通えるか通えないかは、子供だけでなく親にとっても、延いては日本の国家全体にとってもいいことだらけなのです。

 

 

 終わりに
 
 

 この新書は結婚や子育てについて考えておられる方にとっては必読書だといえましょう。

 

 幼児期に於ける教育は三歳時以前から価値があるらしく、母親が三歳までは子供に付き合い続ける「三歳児神話」は崩れたとの記述もあります。

 

 私たちが子供を授かったとき、どのような教育をしていけばいいのかはそれぞれの親が決めるべきことではありますが、科学的にどのような教育を与えれば、その子が健やかに育ち、満足のいく人生を歩めるのかはある程度、決まっていると言えそうです。

 

 誰も進んで貧乏にはなりたくないし、不健康になどなりたくないでしょう。

 

 人生でつらい思いなどをわざわざ味わう必要などありません。

 

 どうすれば幸せになれるのか。

 そういった「傾向」を知っておくことは誰にとっても重要なはずです。

 それを無視する意味などありません。
 
 そういう意味で、子育てを考えておられる方には是非、読んでいただきたいですね。


 では、また。ズンダでした。

 

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 ↓下の記事は虐待が脳味噌に与える悪影響について書いた本。

 実は虐めや性的虐待などを子供時代に受けると脳の成長が止まってしまうという

研究結果がある。

 これはトラウマを克服するために心理面を改善しようとしても必ずしも改善するわけではないということを示唆している。

 

 今回の可知氏の本と合わせて読むと、まさに子供への適切な教育や保護などが重要であることが誰の目にも明らかになるだろう。

 

 

 

zunnda.hatenablog.com