川合伸幸が2015年に出版なさった本の紹介です。
著者の研究は比較認知学というものです。 これは「ヒトの心や行動を動物とひかくすることで、ヒトの心の進化やこゆうな部分を浮き彫りにする」学問だということです。
今回はこの本の第一章について紹介します。
「テレビ・ビデオゲーム」と暴力の章です。
この章では人間は模倣する生き物であり、どうしてそういった行動をするのか。
そしてテレビやゲームは人にどんな影響を与えるのかがかいてあります。
人はどうして暴力をふるうのか
暴力動画を子供たちに見せるとどうなる?
1965年にスタンフォード大学でバンデューラの模倣学習実験が行われます。
この実験の目的は子供たちに人形を殴る動画を見せ、人間はなぜ模倣するのかを考察するためでした。
動画は二種類ありました。
Aの動画は、人形を殴り終わった大人が、別の大人から褒められ、お菓子や飲み物をもらう動画
Bの動画は殴り終わったあと、別の大人から叱責され、平手打ちをくらうという動画でした。
このあと、子供たちは人形のある部屋に通され、そこで実験者により観察されます。
すると、以下の二つのことがわかりました。
- Aの動画を見た子供は人形を頻繁になぐった。
- Bの動画を見た子供は人形をそんなにはなぐらなかった。
このことから分かったことは次のようなことです。
- 子供は見たことを直後に真似はしない。真似をした結果、自分に良いことがあるならば真似をし、悪いことがある場合は真似をしない
つまり、それをすることで自分にとって良いことがあるのか。それとも悪いことがあるのか、という結果を想像した上で、子供たちは行動をとっているということです。
アメとムチで教育をする、と昔からいいますが、このことからもわかりますね。
更に、今回の場合、大人が叱られているところを観た子供たちは家庭内で自分や自分の兄弟が親から怒られた場面を何度かみているという経験をしていたために動画内容に恐怖を覚え、人形をあまりなぐらなかったのだと推測されています。代理学習というやつですね。
これは暴力的な内容を扱ったテレビ番組についてもいえます。
人々がテレビをみて暴力的になるか否かは「悪いことをした人間を暴力によって罰したか否か」が大きな理由になっていることがわかっています。
不正を働いた人間を暴力でやっちめることは正しい、と判断するのですね。
つまり暴力がどんなふうに描かれているかで影響が変化しています。
我々が単純に見たものを真似ているのではありません。
真似することでもたらされる結果を考えて真似するのです。
正の罰と負の罰ー子供への罰をどうするか
では子供に対して、我々はどういうふうに教育していったらよいのでしょうか。もちろん、暴言や体罰はもってのほかだということは上記の研究からしてもおわかりになるでしょう。
罰には次の二通りあります。
正の罰:嫌なモノを与える罰
負の罰:好きなモノを取り上げる罰
この二つの罰が行動科学にはあります。
このうち著者が勧めておられるのは負の罰です。
たとえばゲームやテレビをみる時間を制限したり、子供が車の助手席に乗れる権利をなくすなどして、子供が好きなことを与えなくするというものです。
正の罰のほうは子供に罰としては質が悪いのかもしれません。
ゲームをすると暴力的になるのか?
子供がいる親からすれば、暴力的なゲームをしている子供を心配するのはもっともなことでしょう。
これについても様々な実験が行われております。
分かっていることは次のようなことです。
- 二十分でも暴力的なゲームをすると他者への援助行動が弱まる。
- 日常的にやっていると他者への共感力がさがる
- 暴力にたいして嫌悪感がなくなっていく
- 行動を抑制するための前帯状皮質の前部の機能が弱まる
ということでした。
この研究は「ゲーム脳」などという似非科学とは全く異なると川内氏はいっておられます。
ビデオゲームそのものが悪いのではなく、暴力的なビデオゲームをした被験者は明らかに暴力を受け入れやすくなる効果がある、と証明されているということす。
終わりに
多くの実験から人間の本質に向かっていく本で、情報量が多いながらも、我々一般人にとっても興味深いことが書いてあるおかげで、思っている以上に読みやすい本です。
他の章については折りにふれて、何かの記事内で紹介したり、引用したいと思っております。
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