「ゆとり教育」は失敗だった。
そんな批判の声を聞いたことが皆さんもあるでしょう。
今回紹介する小松光/ジェルミー・ラブリー『日本の教育はダメじゃない』(ちくま新書)はそれを否定しています。
本書より。2012年の試験は「ゆとり世代」によるものであり、総受講時間が少ないにもかかわらず、点数が高い。それ以降は「脱ゆとり世代」による成績。
この本は、PISA(ピザ)やティムズの統計データを利用し、「日本人の順位は世界と比べてどのくらいの位置にあるのか?」を明らかにした本です。
日本の教育についての通説は殆ど間違っている
14の通説中、当たっているのは2説
巷間いわれる「通説」に対して著者等はデータをみて、正しいか間違っているかこたえています。
通説は1から14まであります。
・知識がない
・創造力がない
・問題解決ができない
・学力格差が大きい
・大人の学力が低い
・昔に比べて学力が低下している
・勉強のしすぎ
・高い学力は塾通いのおかげ
・授業が古臭い
・勉強に興味がない
・自分に自身が持てない
・学校が楽しくない
・いじめ・不登校・自殺が多い
・不健康
さて、これらの通説のうち、当たっている通説はどれだと思いますか?
「勉強に興味がない」と「自分に自身が持てない」の2つだけです。
つまり、他の通説に関しては間違っているということがデータから判明します。
知識がない、想像力がない、ゆとり教育のせいで馬鹿になった、不登校が多い、授業が古くさい・・・・・・そんな話はたんなる妄想にしかすぎず、世界的にみると日本の教育は上の方に属していることがわかります。
この本を読むと、「今まで新聞だの、週刊誌だのでいわれていたことってなんだったんだ?」となり、世の中、フェイクニュースだらけで、何を信じて良いのかわからくなります。
※特に驚くべきなのは「日本の子供達は、週六十時間以上勉強する時間が、OECD25カ国中19位であるにもかかわらず、学力水準はトップクラス」という点です。
本書より。日本人が、勉強していないのがよくわかる。
本書より。日本人は理数系が強い。
この勉強時間と学力については「なぜ」なのかがわかっておりません。
データ上でみれば、日本人は明らかに勉強時間が少ないのです。
それなのに学力が高いのはどういうことなのか。
シンガポールのような小さい国の学力が高い理由
ちなみにこのデータをみると、シンガポールが一位をとっていることが目に付きます。
そんなに優れた教育をしているのか!
とお思いの方もおられるでしょう。
これについて著者は次のようにいっています。
「シンガポールの国土面積は約720平方キロメートルで、だいたい東京23区と同じくらいです。シンガポールの人口は約560万人で、東京23区内(970万人)よりも少ないです。」
ここから次のことがいえます。
①日本は地域差を考えなければいけない。東京23区と山間部とでは同一の教育を行うのは困難。
②人口が多いため学校の数も多く教育政策を徹底できない。
教育改革のために全ての学校に手を入れていく余裕がない。
全国の国公立中学校は約二万校ある。学校は一年に200日ある。一日に二校ずつ見回っても、50年かかる。
一方でシンガポールのような小国であれば、相対的にラクである。
これが香港やマカオでもいえる。
要するに国の規模によって、政策の貫徹がやりやすい、やりにくいが存在しているというわけです。
↓ちなみに日本の英語教育については以下の書をどうぞ。
「なんで日本人は英語が喋れないのか」のか、あるいは「そもそも、英語学習の必要があるのか」についてわかりやすく書いてある本です。
日本の教育について語るために知っておかなければならない基本的な情報
現実をみてから、何か云え
この本の主張は非常に簡単です。
「教育政策を語るのは自由だが、〈データ〉をみてから、語れよ」です。
↓データをみることの大切さを説いた本。非常に売れてます。
本書を読むと、総合的に日本の教育水準は高いということが判明します。
すると、次のような疑問が湧いてきます。
「え、じゃあ、どうして教育改革が必要だと叫ばれているの?」
これはその通りでして、「アクティブラーニング」の導入だとか教員免許試験の改革だとか、そういったものが本当に日本において必要だったのか?
という疑義、そしてマスコミ批判に繋がっていきます。
それゆえ、本書では通説を仔細に検討した後、【Ⅱ 日本教育を壊さないために】の項目で3つの提案がされています。
その提案の1つが「現実を見ない教育政策をやめよう」なのです。
私のブログでもよく紹介していますが、これだけデータが取りやすい時代になり、多くの研究者達がTwitterやネット上に於いて様々なデータを提供しています。
これらの解釈を巡って論争になったり、別のデータを提示して反論したり、と活発なやりとりが行われているわけです。
すると、データに基づかないで何かを述べるのは、無定見な行為におもえますね。
勿論、私たちはそれぞれの分野の専門家ではないので、受動的にならざるを得ません。
そういった限界はあります。
しかし、一定のルール、作法として「言っていることに何らかの根拠はあるのか?」というのを見た方がいいことは言えるでしょう。
※ところで、この本では日本の教育が完璧である、とはいっていないことに注意が要る。
本書で述べているのは「現実がわからないと、改良しようがない」ということなのである。
もし、「良い部分を変えて、悪い部分を残したまま」の教育改革が行われているとしたら、それは改悪といえるだろう。
しかし、マスコミによって醸成された世論や空気の力が現実の政治を動かし、この改悪が、現実と化してしまっているのが現代日本なのだ。
本書のお勧めポイント
①今回紹介した『日本の教育はダメじゃない』にはこれからの教育を考えるためのデータ集としての価値があります。
②既存の通説を疑うためのデータ活用法として本書から学べることは多いはずです。
③教育制度について不安な親御さんなどへ。
ぜひとも本書を購入し、日本の教育内容に対して適当な目をもって、見ることができるようになります。
*1:ちなみに、本書の結論から言うと「東南アジアは理数系が強く、読解は全体的に低い」という。
これは、「試験を制作しているのがヨーロッパ人なのが関係しているのかもしれない」と推測されている。