前回の続きです。
科学的な心理学へと発達した心理学
フロイトのメチャクチャな理論
心理学の世界は有名な心理学者フロイトからはじまりました。
フロイトの学説は今からみると信じがたいものばかりでした。
彼の言っていたことは現在の学問では否定されており、まともな人は相手にしていないと原田氏の本にはかかれています。
たとえば、次のようなことです。
・性愛を中心とした発達理論
・幼少期のトラウマや母子関係は性的行動と何の関係もない。
詳しく知りたい方はフロイトのwikiへどうぞ。
恐らく、「何をいってるんだろう、この人」というふうになると思います。
現在の科学的な心理学の世界 リスクファクターで考える
性犯罪の原因や関連要因についてはリスクファクター(危険因子)が見いだされていると原田氏は仰います。
リスクファクターとは何か。
原田氏の文章を引きます。
病気の原因となる因子、あるいは病気と関連のある要因である。研究において、因果関係の立証は非常に困難であるので、「原因」というよりは「関連がある」という控え目な言い方をすることが多い。
たとえば、生活習慣病に関連するリスクファクターとしては、喫煙、飲酒、運動不足、高カロリー食、遺伝などがよく知られている。これらは長年の疫学的研究の蓄積によって、その病気の発症と関連があることが科学的に明らかにされた要因である。
そして、フロイトによる思弁的な理論はこうしたリスクファクターを検討するという考え方が広まった現在においては相手にされなくなったのでした。
そのことを原田氏は「せいぜい家の周りを歩いただけで『地球は平らだ』と*1主張していたのがフロイトの時代である。そして、天体観測による科学的データの集積によって『地球が丸い』ことを発見したのだが現代の心理学である」と主張しておられます。
性犯罪で考えるべき8種のファクター
前回の記事でもあげた犯罪心理学者のボンタとアンドリュースによれば性犯罪のリスクファクターは一般犯罪と変わらないといっているそうです。
セントラルエイトという8種のファクター
①反社会的行動歴
②反社会的交友
③反社会的態度・信念
④反社会的パーソナリティ
⑤教育・仕事上の問題
⑥家族葛藤
⑦物質使用
⑧不適切な余暇活用
これに当てはまることが多ければ多いほど犯罪をしやすくなる、ということがわかっています。
日本の専門家が駄目な例 二つ
というわけで、心理検査をする際はこのリスクファクターをチェックしていくということになります。
原田氏がいうには日本では未だに旧態依然としたフロイト流の心理検査を行っている人が多いらしく、これが非常に問題だと嘆いておられます。
それが次のロールシャッハテストの例です。
ロールシャッハテストの問題点
ロールシャッハテストというのをご存じでしょうか。
紙にインクの染みを見せて何に見えるかを尋ねる検査です。
それがどんなふうにみえるかで人の深層心理やパーソナリティをはかることができるという実験でした。
実はこのテストもフロイト理論に基づいていまして、検査者の主観が入り込みやすく客観的なテストたり得ないといわれています。
このことは一九七〇年代以降、エビデンスが次から次へと提示されたことも裏付けされています。
また、このテストを行うと正常な人でも八〇%が「異常な人」という診断をくだされてしまうらしく、お話にならない似非テストであったといえましょう。
専門家は面接で、犯罪者が再犯するか判断できない
もう一つは面接で犯罪者が再犯するかを見抜けるかという話です。
もちろん、これも見抜けません。
再び、ボンタとアンドリュースによれば、専門家判断による再犯リスクのアセスメントが的中する確率は、五十%程度だったらしく、これなら素人が判断してるのとかわりませんね。
いったい専門家とは何なのでしょうか?
今年に発売されAmazonランキングにずっと入り続けている本があります。
『FACTFULNESS』とよばれる本です。
本屋にもずらりと並び続けているので、皆さんもどこかでご覧になったことがあるかもしれません。
その本の一節を原田氏は抜き書きしております。
彼が世界中を回って、一流のジャーナリスト、学者、経済人、政治家など優秀だと誉れ高い人々に、これらのクイズを一二問出したところ、平均で二問しか正解しなかったという。
ロスリングによれば、それはファクト(事実、データ)に基づかないで、印象に頼って判断するから、そして知識があったとしてもデータがアップデートされていないから、惨憺たる結果になってしまうのだという。(中略)ファクトやデータに基づかず、自分の印象や主観に頼って判断することのほうが、よほど無責任で危険というものだ。
といっておられます。
更に次のようにも述べておられます。
専門家というものは、眉間に皺を寄せて、摩訶不思議なインクの染みや描画から相手の問題を解き明かしたり、長年の臨床経験で培った面接テクニックによって、心の奥底を見抜いたりできる「フリ」をしたい生き物なのだ。
また、専門家がそもそもエビデンスを知らない、最新の論文を読んでいないという事実もある。専門家としてのプライドが大きすぎる者は、エビデンスを軽視し、進んで研修を受けたり、論文を読んだりしない傾向にある。かくして、フロイト時代の知識で止まり、その後の心理学の進歩から取り残されてしまっている。
と、心理学の分野におけるフロイト主義者らを批判しておられます。
このエビデンスをとにかく重要視する姿勢は当方が幾度となく取り上げているメンタリストDaiGo氏がいい例ですね。
私がDaiGO氏を評価するもっともな理由というのは多くの日本人にエビデンスの価値を知らしめたところにあると思っています。
Twitter上などでは、未だに各種データをそろえてとある説を述べた人間に対して「私の周りではそんな人いません」と平気で反駁したつもりでいる人々がいます。
しかし以前のブログでもとりあげましたが、あなたの周りの何例かよりも、数千、数万、数十万人を対象にした調査の方が多くのサンプルがある以上、正確なのです。
例外などあるに決まっています。
世の中の全体的な傾向について語っているのであり、「私の友人は違う」、という話をしているのではありません。
むろん、これは個人をないがしろにしているというわけでもありません。
実際、我々は日常の生活がいそがしく、あらゆるエビデンスを集めるなど不可能です。
ましてや、そのエビデンスが本当に信頼に足る物なのか?となるとそれこそ、専門家同士でケリをつけてもらうのを待つしかありません。
判断保留をして、待機というところですかね。
それはともかくとして、専門家が自分の知見を最新の学説にアップデートできないのは嘆かわしいことですね。
これも今年、流行ったMMTと同様でしょう。
所謂、主流経済学者たちは自分たちの誤りを認めることが出来ず、藁人形論法に終始し、話を逸らし続けるわけです。
中野剛志氏が仰った「センメルヴェイス反射」というのは何処の業界でもあるということですね。
科学的に再犯率が高い人を見分けることができる方法がある
さて、フロイトのような似非心理学と異なり、リスクファクターをチェックリストにした「診断ツール」があります。
世界で最も広く活用されている「Static-99」といわれるものです。
わずか十項目に当てはまるかどうかで査定するのですが、これが専門家がチェックしただけでその人が再犯するかどうか高確率で当ててしまうのです。
また日本版static-99もあり、これは的中率が七十七%であり、オリジナルよりも高い数字とのこと。
更に、このチェックリストをチェックした専門家は患者にあっていません。
このリストだけで再犯するか否かがわかってしまうのです。
このようにエビデンスを確実に積み上げていくことで、分からなかったことが精確にわかるようになったり、追求できるようになることを考えると、思弁的な態度というのは知的に不誠実といえるかもしれませんね。
※私ズンダは思弁を嫌ってはいない。必要なときはあるとおもっている。が、フロイトはもうさすがにいいだろう。
終わりに
本書の第三章までを紹介してみました。
この本は第五章までありますが、そちらは実際の患者さんの具体的な話が載っているため割愛することにしました。
この本で重要なことは次の二つです。
①痴漢した人にも治療はいる。性的依存症という病気なのである。
②フロイト的な心理学はもうやめる
私も犯罪者は苦手だし、嫌いですし、自分の目の前にいたら許せなかったり、嫌悪感を露わにすると思います。綺麗事はいいません。
しかし、反面、彼らが社会に出てくることを考えれば治療するにこしたことはないとも思っております。
非常に勉強になる本でした。
では、お次は明和政子『ヒトの発達の謎を解く』(ちくま新書)でお会いしましょう。
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